「エンリッチメント大賞2021」
―動物福祉を組織として保証する時代に―
〜市民ZOOネットワーク
http://www.zoo-net.org/enrichment/award/2021/index.html
エンリッチメント大賞2021 表彰式・受賞者講演会
今年の受賞園館は,
大賞:京都市動物園
「動物園全体の動物福祉向上のための体制整備」
奨励賞:横浜市立金沢動物園
「オオツノヒツジの生態展示とその検証」
の2園。
「エンリッチメント大賞2021」
―動物福祉を組織として保証する時代に―
http://www.zoo-net.org/enrichment/award/2021/
発表を聞くとほんとうにレベルが高いというか,近年では大賞とほかの賞を合わせて例年3〜5園館が受賞していたのですが今回2園館というのも納得というか内容が濃いなあと感じさせられました(新型コロナ禍で園館側も審査側も制約があった要因もあるかと思いますが)
■大賞
京都市動物園
「動物園全体の動物福祉向上のための体制整備」

「(ネガティブな要素を減らすという段階から)動物福祉のポジティブな状態を増やす」
「今回の発表に美しい最新型の施設は出てきません。新しい熱い思いなどは出てきません。」
「客観的な知見をもとにサイエンスベースで考える,システマティックに評価し改善していく。現場と運営の考えがバラバラにならないよう指針を設定する」

動物種や環境要素によるばらつきをできるだけならす
「動物福祉の重要度・優先順位は動物の人気や担当の熱意で決まるものではない」
「リスク管理のためにチームで取り組み,具体的・必要に応じて簡易的な評価の指標を決める」

学術機関との連携や来園者・地域への発信ももちろんのこと
成果は国内外の学術誌に発表し,知見を園外・世界と広く共有する
できないことはできないと評価・判断し対処する
議論するための動物福祉委員会を設置

なんといいますか,歴史ある市営の動物園だけにベテラン飼育スタッフの経験に頼ることになりがちな環境だと思うのですけれど,近年のリニューアル計画におけるライオンやジャガーなど人気動物でも繁殖を経て飼育し続ける上で十分な福祉が提供できないと判断すれば継続飼育を断念するなどの動物福祉第一の判断,大牟田市動物園の屠体給餌(2019年受賞)をいち早く取り入れるなど運営から現場まで先進的で開かれた体制を感じていたものでした。
こうして生物的にも運営的にもサイエンスの裏付け,システマティックに改善を続けることで動物も人も生き生きとしていける環境をつくりあげる。すごくハードルが高いことを成し遂げているように感じましたが,今後はこれが当たり前になる(既にWAZA加盟の園館には義務付けられている)未来のロールモデルなんだとも感じました。
受賞発表された主席研究員の山梨裕美さん,まだ道半ばという発表でしたが,もういつ審査する側に来ていただいてもと思うくらい,「少しずつ改善」を実践することの力を見せつけられた目から鱗の発表。第20回の節目にふさわしい大賞でした。

京都市動物園HP
https://www5.city.kyoto.jp/zoo/
京都市動物園 主席研究員 山梨裕美
生き物・学び・研究センターとは
https://www5.city.kyoto.jp/zoo/crew/center/yamanashi_profile/
【アーカイブ】エンリッチメント大賞2021 表彰式・受賞者講演会
(1時間33分〜)
■奨励賞
横浜市立金沢動物園
「オオツノヒツジの生態展示とその検証」

本来雄と雌がそれぞれ群れをつくって生息するオオツノヒツジをこれまで混合飼育していたところ,雌が雄に追いかけ回され毎年妊娠出産するなど疲弊したり,繁殖機会および血統が強い雄に偏る・あるいは若い雄がスニーキングで交尾して血統の把握が困難になる―といった問題をはらんでいた。
2017年にプロングホーン舎が空いた(国内最後の1頭)ことから,そのスペースを雌雄分離飼育に活用,個体福祉および繁殖管理を進めている。
放飼場が拡大したことから,さらにそこで生えている植物の植生と食べられ方(オオツノヒツジの好みや各種植物の増減・遷移など)を調査し,放飼場とモート(堀)を合わせて緑を維持する工夫,暑熱対策なども日本大学生物資源科学部くらしの生物学科(動物のいるくらし研究室,住まいと環境研究室)と連携して行っている。



ほんとうに生態・生理の面から科学的にオオツノヒツジの福祉を考え,課題を見つけて改良に取り組み検証を繰り返すPDCAサイクル(Plan計画→Do実行→Check評価→Action改善→P→…)を回し続けているところがプロの仕事だなあと感服しました。以前の体制からすると雲泥の差くらい改善されたと思うのですが今も複数の大きな課題を見つけ改善に向けて取り組みを続けているんですね。



金沢動物園は開園40周年イヤー!
2022年3月には記念イベントも行われます。
金沢動物園HP
https://www.hama-midorinokyokai.or.jp/zoo/kanazawa/
【アーカイブ】エンリッチメント大賞2021 表彰式・受賞者講演会
(1時間08分〜)
■
一次審査通過の6園も意欲にあふれた,実際に行ってみてみたいものばかり。そのすばらしさは選に漏れた理由もさまざまで考えさせられるところがありました。
エンリッチメント大賞 2021 一次審査を通過した取り組みについて
http://www.zoo-net.org/enrichment/award/2021/first.html
盛岡市動物公園ZOOMO
:アフリカゾウの福祉向上のための取り組みと 産学連携による自動給餌機の開発

採餌時間の延長や常同行動の抑制に向け岩手大学と連携した給餌機の開発。
カメラで行動記録をとり効果を検証するしくみを含め取り組み自体はすばらしいのですが,パートナーが亡くなってしまった繁殖適齢期のゾウを単独飼育し続けてよいのかという根本的な問題を抱えているため,今の基準で賞は与えづらいということのようです。
狭山市立智光山公園こども動物園
:カワウソのエンリッチメント
サル山のエンリッチメント
ペンギンビーチの制作
※審査上3件の推薦をまとめて取り扱い


落ち葉や剪定枝葉をサル山やカワウソ,バクなどに供給するエンリッチメントや,ケープペンギンの現生地南アフリカの海岸のように同じ高さで来園者が水遊びしながら観察できる新施設「ペンギンビーチ」。
過去のエンリッチメント大賞受賞の取り組みを紹介する書籍『クマが肥満で悩んでいます』掲載の内容と並べても違和感のない,生き生きした行動に直結しコスパもよい(持続可能な)ものばかりでしたが,今の審査基準では(行動観察・計測や糞に含まれるホルモンなどで)動物のストレスを計測して効果検証・評価・改善のサイクルを回す仕組みまで備えていることが必須条件となってきているため賞には至らず。
東京都井の頭自然文化園
:縦横無尽に駆け回る「リスの小径」

井の頭自然文化園の「リスの小径」,すごく近づいてきて近くで見られる一方で飼いならされている動物との一線は守っているというかなかなかじっとしてくれなくて写真を撮るのが難しかった経験があります。
のいちや東山など他園にも同様の施設があっておなじみのものという印象が強いですが,カメ,カエル,コイ,フナといった動物との混合飼育をしたり,施設内の植生を,全体が広葉樹中心だった植生から入口付近が草地→中央が広葉樹→出口付近が針葉樹といった構成に変化をつけたりと改良・改善が続けられているのですね。
横浜市立野毛山動物園
:できることからコツコツと 〜動物福祉向上に向けた取り組み〜

ダチョウ,クマ,インコなどさまざまな動物へさまざまな工夫がなされたフィーダー。
今年も一度5年ぶりに行きましたが桜木町駅から徒歩圏内という都心立地でコンパクトにならざるを得ない規模ながら起伏のある地形を生かしたメリハリのある施設だなと感じていました。クマのフィーダー…そういえばやたらいろいろなものがありました。次回行くときは(給餌のタイミングに合うかわかりませんが)フィーダー等にも注目してみたいと思います。
大牟田市動物園
:ゴマフアザラシの踊り食いフィーダー

手渡しで魚を与えるのみになっていたゴマフアザラシの給餌に変化をつけるべく,ケーシング(ソーセージの皮)で給水ホースに魚をくくりつけ,水を流す勢いで動き回るところを追いかけさせる食餌エンリッチメント。
受賞歴のある大牟田市動物園としては採食時間の延長にはつながっていないなど手作り感とアザラシの生き生きした様子が,試みを積み重ね続ける同園の一端を見せてくれました。
水が飛び散って来園者にかかるので開園中には行っていないとのことですが,YouTubeチャンネルでライブ配信なども行っている由。
https://www.youtube.com/c/公式-大牟田市動物園OmutaCityZoo
鹿児島市平川動物公園
:コアラの累代飼育と新展示への試み


名古屋出身の自分としては平川動物公園のコアラというと来日一番乗りを争った東山動植物園のライバルという印象が強いのですが,空調完備で夜行性のコアラに気を遣った東山に対して自然体で繁殖に先んじて成功した平川,今は累代飼育がもう8代目まで続いているんですね。各園ユーカリの調達が本当に難しい(食の好みがその日によって異なる)と聞きますがそこが「鹿児島方式」とよばれるほど盤石なのと,透明板を隔てない・音やにおいが伝わる同じ空気でコアラが見られる新展示施設はすごく魅力的です(審査上は新施設故に効果のデータがなく評価できず)。
YouTube 【一次審査紹介部分】エンリッチメント大賞2021 授賞式・講演会
■
また,表彰式・発表の最後には,「正田賞」の創設が発表されました。2002年のエンリッチメント大賞創設から2016年に亡くなるまで審査委員をつとめられた正田陽一先生(東京大学名誉教授,東京動物園協会顧問)を記念するもので
園館の環境エンリッチメントの取り組みのうち,特に市民との連携を評価する賞とのことです。
【重大発表あり】正田賞創設記念オンライン対談
川端裕人・日橋一昭・本田公夫
![]() | クマが肥満で悩んでます 動物園のヒミツ教えます (メディアファクトリーのコミックエッセイ) - sirokumao→紹介記事 |
■過去のエントリ
【ペンギン】国際ペンギンの日2021(&2020)(2021年05月08日)
オンライン!エンリッチメント大賞2020授賞式(後編)(2020年12月08日)
オンライン!エンリッチメント大賞2020授賞式(前編)(2020年12月06日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(4)葛西臨海エトピリカ&長野飯田市ニホンカモシカの環境改善(2019年12月31日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(3)駆除動物をご馳走に―大牟田市動物園の屠体給餌!(2019年12月31日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(2)柴田典弘さんとトナカイ (2019年12月29日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(1) (2019年12月22日)
初参戦!プロとマニアのペンギン会議2019(2019年03月17日)






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