●愛理さんとは,昨年,地方の某動物園の開園待ちで
たまたま2人だけ居合わせて雑談したのがきっかけで知り合った。
その日はそのまま一緒に園を回り,LINEを交換,
同じ関東在住で職場が近いことがわかって
その後もこういうイベント・催事には
見つけたほうが声をかけて都合が合えば
2人で見に行くことがときどきあるという関係だ。
(数回程度だが,このご時世を考えるとかなり付き合いのいい
ほうではないか)
この日見に来たのは,三軒茶屋駅のすぐ上のビルで開かれている
『色覚を考える展』。
ヒトや動物のさまざまな色覚を体感できる企画展だという。
●イヌとトンボの色覚によるVR映像
入って最初に目の前に広がるのは,イヌとトンボの視界を
シミュレーションしてヒトの視覚と比較した映像。
イヌは色の数が減ってピンボケぎみというかにじんだような映像,
トンボは緑色が鮮やかだがドット絵のような映像で
正直,何を見ているのかよくわからない。
イヌの視覚
「イヌは夜行性でおもに耳と鼻に頼るから
視覚が退化したのかな」
「単純に目が悪くなったっていうより
暗い中で感度がよくなるように進化した結果でもあるみたいだね」
ヒトの視覚
トンボの視覚
「アキアカネは,目の上と下で色覚が違うんだって。
上のほうは敵の影が近づいてくるのを素早く気づくために
青色しかないって」
「色彩感覚があるほうの下半分も解像度が低すぎて
何が見えてるんだか全然わからないね。
エサとそうでないものの区別とかつくのかなw」
「たしかに。
同じ種の異性とかどうやって見つけるんだろうね」
生殖に関係する言葉が出てきて
ちょっとドキッとしたが,顔に出さずに話を続ける。
「画像が魚眼レンズみたいに歪んでいるのはトンボの
視野が広いことを示しているんだろうな」
「ああ,そうだ。なるほどー。
見て,VRヘッドセットで360°体験ができるって書いてあるけど
今はやってないみたいだね。
けど,VRセットをつけても私たちの視野は広がらないかw」
VRセットをつけて互いの姿がどんなふうに見えるのか
といった体験はしてみたい気もするが
そもそもドット絵みたいな解像度では顔の区別もつかなそうだし
視界の下半分でないと影しか見えないか…
と頭の中でシミュレーションして次へ進むことにした。
●ヒトと他の動物の色覚比較
「今度は,動物の色覚のシミュレーションなんだね」
モニターには鳥,犬,ヤモリといった脊椎動物から
チョウ,ハチなどの昆虫,オウムガイやシャコガイといった
水中の無脊椎動物まで10種類以上のいろいろな動物の
絵が表示されている。それぞれの絵にタッチすると
その動物の色覚がわかるようだ。
「え?ケヤリムシからいくのw」
「だって,きっと空を飛ぶ動物のほうが色に敏感だと思うし。
きれいなのは後にとっておいて,
(水中の)パッとしなさそうなのから」
10種類以上ある動物の色覚をすべてチェックするつもりのようだ。
幸い,会場内は空いていて他の入場者は1組あるかないか。
1つ1つ展示をじっくり見ていく入場者は僕たち2人だけで
体験展示を占領しているからと白い目で見られることはなさそうだ。
構造色を思わせる水色のネイルをした人差し指が
左下のケヤリムシイラストをタッチすると
砂底の貝を見ているような写真が表示された。
左がヒトの色覚,
右がその動物の色覚に2分されている。
境界にあるアイコンにタッチして左右にスワイプすれば
境界を移動できるようだ。
想像通り,単純な体制の動物については色覚がなかったり
ピントがボケボケでヒトの視覚の劣化版という感じだ。
3つの色覚はあるがその情報を統合して色をつくることはできず
多くの目で光の点としてだけ認識するシャコガイ,
ピンホールカメラ眼のオウムガイ,
体の向きに関わらず向きを保つ複数の目を持つハコクラゲ,
色覚がなく視力も弱いカギムシ
…と,サクサクとチェックを進めていく。
「チョウやハチは紫外線が見えるから花の色が違って見える」
「1色に見える花弁が紫外線で見ると塗分けられていたりするんだね」
ハチの色覚(左側がヒトの色覚)
「トンボのこの赤青トーンの加工はなんなんだろう?」
「偏光がよく見えるというのを表現しているみたいだね」
トンボの色覚(左側がヒトの色覚)
驚いたのがヤモリだ。
夜行性の代表のような動物だけに,
色覚の乏しいモノクロの側がそれかと思いきや
ヒトではモノクロにしか見えない暗い視野でも
色(緑,青〜紫外線)に敏感でピントもよく合うのだという。
ヤモリの色覚(左側がヒトの色覚)
そして,最後にワシの絵をタップすると,
「トリ」の色覚が表示された。
昆虫が3色覚で紫外線も近くするのとはちがって,
鳥の眼はヒトの可視光線を受容する3錐体に
紫外線を受容する錐体細胞を合わせた4色覚なのだそうだ。
トリの色覚(左側がヒトの色覚)
●ヒトの眼と色を感じるしくみ
ヒトの3錐体(S・M・L)の感度を示したグラフと
色のスペクトルと明暗を表示したカラーパレットが
上下に並んでいる。
カラーパレットの適当なところを指で触れると,
3本のグラフ上に大きな点がついて
3錐体がどのような比率で反応したときにその色が
近くされるのかが示されるようになっている。
「高校の教科書では青錐体・緑錐体・赤錐体って
いってたけど,ここではS・M・Lなんだね。
S・M・Lサイズ?なんてw」
「波長のShort・Middle・Longだね。
こうして見ると,MとLって感じる波長がかなり近いから
一方が緑でもう一方が赤っていうの変な感じだもんね」
「うーん…残る1つのSだけが感じる藍色とか
紫色って感度のピークのあたりでもかなり暗く感じるね。
逆にいうと,感度の谷間になっている波長が暗く見えるわけじゃないの
どういうふうにバランスとってるんだろう」
「あ,こっち見て」
という声に反応して左側を見ると眼球の絵が。
右側のカラーパレットで触れた色に対して,
網膜の錐体がどんなふうに反応してるかを表示しているようだ。
●赤ちゃんの見える世界
続いてのブースには延々とモニターに動画が流れている。
画面上に「新生児」「2か月」「8か月」「1歳」
4つのボタンが表示されていて,
マウスでクリックすることで切り替わるようだ。
新生児はピンボケでモノクロ
「実は生まれたての赤ちゃんも親の顔が見えている」
などと聞いたこともあるが,わかったとしても
すごく顔を近づけて表情がわかるかどうかというところだろう。
2か月では
赤と緑が区別できるようになり,視力も0.1?
くらいには見えるようになる。
8か月になると,
色の見分けは大人と同じようになり
視力も0.6くらいまで上がる。
そして1歳になると
大人並みの視覚,ふつうの映像になった。
●紫外線を利用した植物写真と赤外線を利用した風景写真アート
ふとガラス張りの会場外に目をやると
ガラスに大きな花の写真パネルが張られている。
説明掲示は「紫外線を利用した植物写真」
見たこともない色彩のカラフルな写真だ。
「紫外線が見られる鳥やミツバチのシミュレーションで見たのとは
違うね。どうやってこんなきれいな色を出してるんだろ」
「…ああ,ブラックライトを当てて,花から出る蛍光を
撮影してるんだって」
「そうなんだ,ブラックライトなら去年か一昨年,
セミに当てて蛍光を見たよ。俺も安いの持ってるわ」
こんなきれいな写真を撮るにはどんなふうに当てて
どう撮影したのか,それはそれで気になるところである。
紫外線(ブラックライト)フラワーアート写真3枚の横には
さらに3枚,写真パネルが張り出されていた。
「こっちは赤外線を利用した写真だって」
もう愛理さんが掲示解説を読み解いてくれる担当になっている。
僕もこういう解説を読むのはさほど面倒なタイプではないが
さっと目を通して端的に説明してくれるとありがたい。
「なんか色が飛んでるみたいだね。凍り付いたというか
生き物や土が化石になっちゃったような…」
「もともとデジカメは赤外線に対して感度が高いんだって。
普通は人間の見え方に合わせて赤外線をカットするんだけど
このフィルターを外すことでコントラストの強い
不思議な季節感の幻想的な写真ができるんだって」
「へー。感度を強くするせいで逆に色が飛んじゃうんだ」
使わなくなったデジカメをいじって赤外線フィルターを
取り外せるならちょっとためしてみたい気もしたが
今使ってるコンデジではやめておこうと思った。
●ヒトの色覚多様性
そしていよいよラストにしてメインといってもいいコンテンツ。
「ヒトの色覚多様性」と題された展示の解説には,冒頭に
「注意 この展示内容をご覧になることによって,
ご自身の色覚の特性がわかる場合があります。
ご了承の上,ご覧ください」
と書いてある。
「自分が普通の色覚じゃないって
わかっちゃうおそれがあるってことか…
人と一緒に来てそうなったら,
体のプライバシーがばれちゃうってことだもんね。
今は学校で色覚検査やってないんだってね。
…って,年がばれちゃうなw」
「私も小学生のときやったよw
ほら,2003年までは検査の義務があるんだって。
あ,やば,ぎりぎりだw」
いわゆるてへぺろな表情だろうか。
マスクで鼻から下は見えないが
細めた目のまわりの動きから上がった口角が目に浮かぶ。
(最初に会った動物園でマスクを撮った写真を
互いに何枚か撮っているのだ)
「そうだ,"普通の色覚”って言い方・考え方
よくないんだよね。俺,個人的には『色盲』って普通に使えば
いいのにと思ってんだよなー。盲って釧読みしたら差別用語だけど
行き止まりとかの意味もあって使っちゃいけない字じゃないし
昔,2色覚の先生たちが作った色覚問題のサイトで
『色盲』でいいって書いてあったの見たことあるし。
色覚異常とか色覚障害とかよりよっぽどいいじゃん,ね」
「95%以上の多数派の色覚を,“コモン”でC型色覚,
M錐体がないタイプをD型色覚(デュータラノピア),
L錐体がないタイプをP型色覚(プロタノピア),
S錐体がないタイプをT型色覚(トリタノピア)
っていうんだって書いてあるね。
色によってはC型より他のタイプの人のほうが敏感に
識別できることもあったりするし
障害とか遺伝病と考えるより感じ方のタイプの違いと
考えるべきだって。
(日本)カラーユニバーサル機構は『色弱』を提唱してるって」
「そうか…」
などといっている僕たちの前に置かれているのは
画面が4分割されたiPad。
このiPadのカメラで撮影されている映像が
C型・D型・D型・T型の色覚に変換されるというわけだ。
「緑と赤の区別がつきにくいと野菜の色が
ほとんど明暗だけって感じになっちゃうね」
「T型は白黒と赤の印刷みたいだけど,このタイプは
すごく少ないんだね。10万人に1人だって」
3畳分くらいの面積に数々の写真や絵画の画像が
並べられたタペストリー状の展示を2人でしばらく見ていたが
「あ,ちょっとこれ」とiPadを僕に手渡すと
自分のスマホで何やら検索を始めた。
そして,彼女が僕に向けたスマホの画面には
一目でそれとわかる筆致の,ゴッホの月夜空の絵が
表示されていた。
「ゴッホって,独特の色づかいに色覚が
関係してたんじゃないかって聞いたことがあって。
この『星月夜』の絵,どう見える?」
彼女の首から下あたりを写していたiPadのカメラを
スマホの画面に合わせた僕は「お」と思わず声を上げた。
C型・D型・P型の画像がほとんど同じ,
T型も青が少し緑がかった程度で色の区別はほとんど同様にできる状態で表示されていたのだ。
「じゃあ,『ひまわり』はどうだろう?」
スマホをテーブルの上に置いて自分でも確認した彼女は
ゴッホの最も有名な代表作のタイトルを口にした。
ゴッホの色覚が彼の独特の配色に反映されていたのなら
共通の傾向があるかもしれない。
『星月夜』の試みが目を見張る結果を出して気を良くした
愛理さんは手早く次の作品をスマホ画面に呼び出し,
今度は即自分でiPadを手に取りのぞき込んだ。
「…」
無言の彼女の後ろからiPadの画面を見てみると
ゴッホの『ひまわり』は
緑色だったヒマワリの茎がD型・P型では茶色になり
ほとんどセピア1色で描かれたような絵になっていたのだ。
「これは…ドライフラワーだね」
「ゴッホは緑とオレンジの区別がついてたんだね」
オチともいえない結果となったが
見応えのあった一連の「色覚を考える展」の最後
色覚シミュレーション体験を十分味わい見終わったという
いい区切りとなったようだ。
実はこの色覚シミュレーションは
スマホアプリとして公開されていて
誰でも使えるのだ。
制作物についてユニバーサルデザイン的配色ができているかの
チェックなどがこれを使うことでできるわけだ。
■色のシミュレータ
浅田一憲博士(医学・メディアデザイン学)開発
https://asada.website/cvsimulator/j/
●おしまい
会場に置いてあったB6判の『色覚のフシギ』
子ども向けガイドブックと
東京工芸大・コラボギャラリーの企画展パンフレット4種類を
一通り手に取って鞄に入れる僕の横で
彼女は,今回の『色覚を考える展』と同じ内容の
『色覚を考える展』(2018年)のパンフを選んで
リュックに入れた。
「じゃ,堂嶋さん,また」
「うん,また」
LINEで次の約束や行った後の感想のやりとりなどはするが
現地集合・現地解散は僕たち2人の
もはやお決まりのパターンとなっていて
この日の僕の予定も織り込み済みで組んでいる。
僕はこのまま地下通路ですぐの地下鉄・三軒茶屋駅から
3駅先の渋谷まで移動し,
『けものフレンズ』関連ユニットのライブツアー最終日公演に
参加するのだ。
こちらの趣味に2人で行くことは
いつかあるのかな…
という妄想をした8月の週末でした。
(1人で行きました)
昨年秋から色覚についてぐっと興味をもつきっかけとなって
すごく勉強させてもらった(この『色覚を考える展』の
関連書籍として唯一推されている本でもあります)
『「色のふしぎ」と不思議な社会』の著者・川端裕人さんの新作小説
『空よりも遠く,のびやかに』を今読んでまして
![]() 「色のふしぎ」と不思議な社会 ――2020年代の「色覚」原論 (単行本) - 川端裕人, | ![]() 空よりも遠く、のびやかに (集英社文庫) - 川端 裕人 |
いやー,青春してるなあ,
スポーツなり知の世界なり打ち込めるものがありつつ
好きな異性の子との距離感に胸高鳴らせる物語に
触発されてしまいまして,思わず妄想を書きつらねてしまいました。
『「色のふしぎ」と不思議な社会』も
『空よりも遠く,のびやかに』も感想を書きたい予定なのですが
(前者においては去年読み終わってるのに
与えられたものが大きすぎてちゃんとした事書かないと…
と思ってしまって筆をとれない状態)
こんなエントリ書いた後に感想upしたら失礼にならないか心配…;^^
『色覚を考える展』は2021年08月29日(日)まで。
三軒茶屋駅A0番出口すぐ・キャロットタワー内 生活工房ギャラリー(3F) https://www.setagaya-ldc.net/program/516/ 入場無料 ■色の国際科学芸術研究センター カラボギャラリー[東京工芸大学厚木キャンパス] 「色」の楽しさを科学と芸術の視点から体験できるギャラリー。本展は、2018年4月にカラボギャラリーで開催された「色覚を考える展」をバージョンアップして開催。 |
■知覚・感覚関連エントリ
【行ってきた】明治大学博物館「立体錯視の最前線」(2019年09月08日)
【土曜限定・2015年限り開催】 錯覚美術館 行って来ました(2015年07月20日)
東大行って来ました・駒場先端研・生研公開キャンパス(2)(2009年06月03日)
サイト紹介◇錯視のページ(2009年02月04日)
Lesson4-01(p12)いよいよ網膜に到着(2008年11月27日)
※lesson4「目のつくりとはたらき」を一度に読むには
p1〜6をPDFで読む p7〜12をPDFで読む p13〜20をPDFで読む
ちなみにこの日,『色覚を考える展』の後に行ったライブのユニットはこちら。
![]() Starry Story EP - Gothic×Luck | ![]() おやすみ おはよ[初回限定盤](CD+DVD) - Gothic×Luck |
TVアニメ『けものフレンズ2』に登場するカタカケフウチョウ役の八木ましろ・カンザシフウチョウ役の菅まどかによる声優デュオユニット。極楽鳥のコンビでゴシックラック(略称ゴクラク)。
『けもフレ2』は,楽曲に関しては前作に劣らない名曲に恵まれたシリーズで,ゴクラクの2人が歌うED『星をつなげて』は2019年のアニサマDAY1でトリ前を演じたfhána(ファナ)の枠の重要な1曲としてコラボ歌唱するほどの名曲となっています。
最新EP『おやすみおはよ』をひっさげての
この日の東京公演では渋谷PEASURE PLEASUREを昼夜2公演で埋める盛況で
9月に追加公演も決定しています。
Gothic×Luck(ゴシックラック)オフィシャルサイト
Gothic×Luck 公式Twitterアカウント:@Gothic_Luck
毎週日曜16時から30分,文化放送「超A&G」で映像つきラジオ「Gothic×LuckのGothic×Radio」(略称「ゴクラジ」)を配信。



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