2007年10月17日

生物・理科の先生はこの本を買っておけ!岩波新書『細胞紳士録』


カラー版 細胞紳士録 (岩波新書)

藤田 恒夫, 牛木 辰男 (2004/3/19)
岩波書店 ¥1000+税
→amazon
木原アイコン
本当にどれだけぶりくらいだろうか…なぁ。超久々,というかこのブログで「おすすめ本」の記事,過去2回しかUpしてないんだよな。
ここんとこ,本を読んでもなんだかんだで書けずじまいで時間が経ってしまうってことがけっこう続いてたけれど,これはお薦め!
高校の生物の先生はもちろん,中学の理科の先生も全員1冊は買っておくべき本の1つであると。そして,職員室なり理科準備室の机に常備し,学級文庫よろしく生徒が気軽に読めるようにしておいたらすっごくいいと思う。

で,どんな本かというとタイトルと表紙の写真が語るように



内容(「BOOK」データベースより)
私たちのからだを構成する数十兆という細胞がすべて同じなら、とても人間のような生物はできない。細胞たちは数百種類の技能集団に分けられ、外観・機能ともに、じつに多彩だ。たとえれば「パスタづくりの巨匠」「穴の底に住む怪人」「宝石づくりの魔術師」「スポーツ万能」…。多士済々の細胞紳士たちの姿を、最新技術によってとらえた。


とにかく,写真を眺めているだけでもその鮮明さ,多種多様な細胞の形の面白さが楽しい!
皮膚から骨から内臓から神経から…軟骨細胞・骨細胞・筋細胞といった教科書でおなじみの細胞・組織から,ライディッヒ細胞・パネート細胞・グリア細胞といった高校生には謎めいた名前の細胞,嗅細胞や視細胞・糸球体上皮のタコ足細胞のように図では見ることがあってもこんな鮮明な写真があったのかと驚きの細胞など,本当にこのバラエティの豊かさがうれしい。透明な水晶体の細胞なんてのもしっかり写真で解説されている。

これが鮮明に染色された光顕(光学顕微鏡)写真あり,リアルな立体感をもって迫る走査電顕(電子顕微鏡)写真【細胞を区別しやすいよう着色されたものが多い】あり,その細胞の構造を図解するイラストあり,ゴルジやランゲルハンス,メチニコフといった研究者の顔写真ありとそれぞれの細胞・組織に応じた豊富なビジュアル素材で紹介されている。まさにいきいきと迫ってくるのだ。

解説の文章も,大人はもちろんのこと,高校生でもまずまず読めそうな平易な文で,特徴ある細胞のはたらきや研究者たちの発見のいきさつが語られている。特に各細胞について設けられた項目の見出しがいい。例を挙げるなら,初っ端に登場する線維芽細胞につけられたキャッチフレーズがいきなり「糸を吐く怪鳥」である。曰く,人の体は強靱で,両腕を思い切り引っ張られても(脱臼はともかく)腕が胴から離れたとか腕がちぎれたという話はほとんど聞かない。それは引っ張る力に強い線維が体内に張り巡らされているからである。忘れられがちだが,その膠原線維,別名コラゲン(コラーゲン)線維を作っているのはもちろん細胞である。この細胞は光顕で観察すると自らが作った線維に埋もれがちだが電顕写真では羽を広げた鳥の姿で現れる…。
知識がストーリーになって語られているから,読んでいくごとに「ためになる」と「面白い」が同時進行で展開されていく。本当に楽しい。

と,まあ,私の場合は人体に関する理科・生物・医学の基礎知識が人並みにあればこそより一層楽しめるのだろうけど,高校の生物を一通り学習した生徒,あるいはこれから学ぼうという中学生だって,たとえ説明文の中にチンプンカンプンな用語がちらちら出てきたとしても,「気管」や「皮膚」,「肝臓」程度の言葉がわかりさえすれば,深い意味はさておいてパラパラと眺めたり斜め読みするだけでも十分楽しめることだろう。とにかく生物(学)への興味をかきたてられることうけあいの1冊である。(人体の臓器の配置や形については内分泌腺について描かれた図があるのみなので,この本を読む上で予習しておくか,資料を用意して参照しながら読むとより深く楽しむことができるだろう)

つまるところ生物というのは「人間とは何か=人体はどうやってできているのか=自分はどこから来てどこへ行くのか」という学問である(と私は思っているし,そう思っている生物の先生は多い)から,若い多感な時期に自分の体を構成する細胞・ミクロの世界の構造が鮮明に示された画に触れるのは興味を喚起する上である意味究極の題材だと思う。そんなわけで,高校の生物の先生や中学の理科の先生はこの本を是非入手して,生徒が手軽に手にとってパラパラと見たり読んだり,持ち帰ってじっくりと読むことができるよう,学級文庫的に理科室に置いておくとか職員室の自分の机に置いておいて生徒にいつでも見せたり貸したりできるようにしておいてほしいと思う。そこまで思わせる1冊である。

ここまで読んで「この本,そんなに斬新な本か?」
と思った貴兄もおられると思う。
確かに,古くは1976年に『細胞の構造―電子顕微鏡写真の見方』(大森正樹/文光堂)というごっつい写真集も出ているし,この『細胞紳士録』と全くの同タイプである新書判でも,天下のブルーバックスから『新・細胞を読む―「超」顕微鏡で見る生命の姿』(山科正平/講談社→amazon)が出ているのだ。

この『新・細胞を読む』,発行は2006年9月で『細胞紳士録』より新しく出されているのだが「新」とついているように,前身がある。1985年に出た『細胞を読む』(山科正平/講談社)がそれで,『細胞紳士録』の刊行に「うちが元祖だ」と触発されたのか,昨年に21年ぶりのリニューアルと相成ったわけなのだ。『紳士録』と『(新)読む』を比較した場合,『(新)読む』のほうが40ページほど多く,1ページいっぱい使っての大きい写真や記述の詳しさ・細かさなど上を行っている点も多々あるのだが,どちらか1冊買うとしたら,私は,まずは『紳士録』のほうを薦めたい。『(新)読む』のほうはいかんせん22年前の本の焼き直し,電顕写真にしても透過式写真が多いし粒子の細かさなどで最近の技術で撮影された写真とはやはり差がついてしまっていることは否めない。それに,プルキンエ細胞の蛍光染色写真などカラーのページもあるのだがほとんどすべてが1色印刷,白黒の本なのだ。


美香理アイコン
これに対して『紳士録』は全ページフルカラー。
「生徒に読ませたい本」として薦めたいという今回のコンセプトを考えたら,見た目も読みやすさからいってもとっつきやすいこちらのほうに軍配が上がるわね。


炭疽菌―炭疽菌とは何か (細菌学シリーズ)  山本達男/考古堂書店
木原アイコン
写真といえば『紳士録』の藤田恒夫, 牛木辰男両先生は新潟大の名誉教授と教授。実は電顕にかけては新潟大のレベルの高さは知る人ぞ知るところ。※こちらの山本達男先生も新潟大医歯学総合研究科の教授。
フォトエージェンシーを通して借りたら使用料が1枚3万円からかかる(300点使ったら900万円!)高品質で貴重な電子顕微鏡写真も,その多くを自前で調達してふんだんに使えりゃ経費も抑えられその点でも有利。この本は1987〜93年の月刊誌連載が元になっており,10年ほど前の高校教科書で既に使われているような写真も含まれているが刊行の際には学問の進歩を踏まえ大改訂したとのこと。そりゃそうだ,こんなに読み応えあるんだもの。




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posted by ドージマ・ダイスケ at 02:39| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【おすすめ本】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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