その最後に,「回虫に条虫,横川吸虫に肝吸虫…あらゆる寄生虫にやられそうな食生活だったわね」というセリフが出てくるわけですが,ここに挙げられた寄生虫はいったい何から感染してどんな症状を引き起こすのか,まとめてみました。
■寄生虫というのは,卵→幼虫→成虫と,複数の状態を経て成長し,そのつど生育に適した宿主を求めて移動していきます。ヒトを最終宿主とする寄生虫は,ヒトの体内で成虫になり卵をどんどん生産します(雄雌異体の寄生虫の場合,雄1匹だけが体内に入った場合には)が,他の動物を最終宿主とする寄生虫の場合は成虫になることができません。ヒトの免疫機構にやられてそのまま死んでしまうものあり,生き延びられる場所を求めて体内を動き回るものあり…どちらにせよやっかいです。
| 回虫…長いものは20cmになる細い寄生虫(線虫類に属する)で,戦前は日本人の7割,現在も世界の全人口の5分の1が感染しているといわれます。成虫が宿主の小腸で卵を産み,便→発酵が不十分な堆肥から土壌や野菜を汚染し,次の宿主に感染します。腸でふ化した幼虫は腸の壁に侵入すると血流に乗って肺→気管→食堂を体内を「回」り,小腸で成虫になります。ヒトを最終宿主とするヒト回虫のほか,ブタ回虫,イヌ・ネコ回虫,アライグマ回虫などさまざまな種類があり,それぞれ腹痛・肝障害・神経障害などの症状が出ます。 | |
| 条虫…ひもかわうどんのような平たい寄生虫でいわゆるサナダムシの仲間。宿主の腸の中で数百の体節がつながった数mもの巨大な長さに成長し,各体節には雄雌の生殖器が備わっていて,端のほうから成熟した受精卵をもった体節が順にちぎれていって宿主の体外に卵をばらまいていきます。 種類としては,豚肉から感染する有鉤条虫(感染すると有鉤嚢虫という幼虫が筋肉・眼球・中枢神経などさまざまな部位にできて深刻な症状を引き起こす),牛肉から感染する無鉤条虫(ヒトの体内では嚢虫にならない),サケ・マス類から感染する広節裂頭条虫(悪寒・食欲不振など。症状はたいしたことないが虫の端っこが肛門から垂れ下がってくるので精神的ダメージが大きい),は虫類・両生類から感染するマンソン裂頭条虫(移動性の腫瘍・下痢・失明)などがあり,イヌ条虫などノミやダニから感染するものもいます。 症状としては豚から感染する有鉤条虫が特に危険ですが,わが国の豚肉は国内・輸入もの(必ず冷凍されている)ともに基本的には安全。ただし排泄物処理システムが整備されていない国では感染率が高く,該当する国からの来日外国人・帰国者が虫を持っているというケースは少なくないとのこと。 | |
| 横川吸虫…成虫でも1mmあまりの小さな寄生虫で,アユの刺身やシラウオの踊りから感染し,腸の柔毛(絨毛)の中にもぐり込んで栄養を吸います。数百匹と大量に感染しないと自覚症状が出ませんが,ひどくなると下痢が止まらず激やせします。 肝吸虫…肝臓ジストマとも言われます(ジストマとは「2つの口」の意味。吸虫類は口と腹に吸盤を持っていてこれが口に見えたため)。最終宿主であるヒトやイヌ・ネコなどの便から出た卵は淡水に入るとふ化し,マメタニシ(第1中間宿主)→モツゴなどの淡水魚(第2中間宿主)を経て最終宿主に感染し肝硬変を引き起こします。このとき最終宿主に感染するのは第2中間宿主にいるときのメタセルカリアという状態のときだけです。 カンテツ(肝蛭)…2〜5cmもの大きさになる平たい楕円形の寄生虫(吸虫類)。モノアラガイ→水草→ウシ・ヒツジなどを経由して成長していき,ウシの糞便で汚染された水域でクレソンやセリを摘んで食べることでヒトに感染します(レバ刺しから感染する例もあり)。漢字で肝臓のヒルと書くように肝臓にもぐり込み,急性胆のう炎や胆石のような痛みや発熱を引き起こします。 昭和の時代の高校生物ではカンテツの生活環も習ったものですけど,今は昔ってかんじですね…。 肺吸虫…淡水の貝類カワニナ→モクズガニやザリガニ→イノシシと渡り歩く生活環をもつ寄生虫で,ヒトにはよく火の通っていないイノシシ肉や,カニ汁を作るときにカニをつぶした手やまな板から感染します。熱・咳・血痰など肺結核に似た症状を呈するほか,脳に移動して脳腫瘍に似た症状(けいれん・頭痛・まひ)を示すこともあります。 | |
| 顎口虫(がっこうちゅう)…代表的な有棘顎口虫はケンミジンコ→淡水魚・カエルなど→大型の魚・ヘビなど→イヌ・ネコなどという宿主を経て成長していく寄生虫(線虫類)で,ヒトにはライギョの生食などから感染。ヒトは本来の宿主ではないので体内に入っても成長できず,幼虫のまま体中を動き回り痛がゆいミミズ腫れを生じます(幼虫移行症)。このほか,ドジョウから感染する剛棘顎口虫,イノシシを終宿主とし,ヤマメやマムシから感染するドロレス顎口虫などが知られています。 | |
| トリヒナ(旋毛虫)…豚肉・馬肉や,クマ・肉食動物の肉から感染する寄生虫(線虫類)で,小腸内で成虫になり多数の幼虫を産生すると,その幼虫は有鉤条虫のように筋肉中で嚢虫となり,発熱・倦怠・筋肉痛を引き起こします。 |
>>図を大きく見る
このほか,メジャーなところでは
しめサバなどから感染するアニサキス(クジラが最終宿主であり,ヒトの体内では強い胃酸の攻撃を受けて苦し紛れに胃壁や腸壁に頭を突っ込み激痛を生じる。また,2度目以降の感染ではアレルギーの二次反応で急激な胃腸炎を生じる)や,
淡水中を泳ぎ皮膚から感染する日本住血吸虫(血管中にすむ細長い吸虫で,卵が血管に詰まって肝硬変を引き起こす),
水や野菜から感染する赤痢アメーバ,クリプトスポリジウム,エキノコックス,肉類からうつるものではトキソプラズマ,カが媒介するマラリア…
戦後の日本は都市化と衛生インフラの整備,
薬をバンバンまきまくる衛生対策で
寄生虫の感染率を劇的に下げてきましたが,
当時使われていた多くの農薬は規制で使えなくなり
また,自然志向や地球温暖化,国内外の人の出入りの活発化…
率は高くないですけれど,危険は私たちのすぐ近くに
潜んでいるかもしれませんね。
■参考文献
清潔指向社会の落とし穴 寄生虫感染のQ&A(名和 行文/ミネルヴァ書房→Amazon)
「西郷隆盛が馬に乗れなかったのは寄生虫のせいというのは本当?(本当)」「魯山人がタニシを食べ過ぎて寄生虫症で死んだというのは本当?」「豚肉はよく火を通さないとあぶないというのは本当?」など,雑学的な質問を設定したQ&A形式の本なのですが,うまいこと1設問で1種の寄生虫を解説する構成になっている(目次には各設問で解説されている寄生虫名も記されています)ので読んで面白く,検索性も高く便利(巻末に索引もついてます)。
この本ではマラリアに関してページ数を割いているのが目を引きます。古くは平清盛や光源氏もマラリアで亡くなったと言われ,1900年には年間20万人が感染するなど,わが国は戦後もマラリア感染国であったことが示されています。海外からの人の出入りが増加し地球温暖化が進む中で改めて熱帯感染症への対策が求められています。
ぜひ知っておきたい食品の寄生虫(村田 以和夫/幸書房→Amazon)
寄生虫が人体に入り込む経路や,ヒトの免疫機構と寄生虫の戦い,ヒトと寄生虫の進化の歴史など前掲の本よりはやや専門的な内容にも踏み込んでいる。生物学的項目ごとに章分けされ,線虫・回虫・条虫などの各寄生虫に関する解説が各章に分散しているので,種類ごとに調べる場合には不便。
著者の専門性もあって,現在日本人に最も身近な寄生虫といえるアニサキスに関して詳しい。また,水から広く多数の感染者を出すクリプトスポリジウムの台頭にも警鐘を鳴らしています。
どちらも藤田紘一郎博士の「いい寄生虫もいる」「寄生虫をもつと花粉症にならない」学説はかなり意識していて後者では総論にあたる第1章の中で「身体にいい寄生虫というのは本当にいるのですか」「寄生虫が減ったからアレルギーが増えたというのは本当ですか」という設問を設けて解説し,前者では寄生虫と免疫機構・アレルギーに関する第7章に「寄生虫の代謝産物がアレルギーを防ぐという『藤田学説』とは」というタイトルを付け解説しています。
「寄生虫ダイエット」に関しては,『Q&A』では「サナダムシは何mも成長して大きく見えても重量は大したことなく,人体から横取りするカロリーもたかが知れてる」,『知っておきたい』では「ビタミンA・B群・Eが大量に吸収されて失調症の原因になる。逆に粉末にした条虫を飲んだ方がビタミンやコラーゲンの補給になって体にいい」とそれぞれの理由から否定しています。
クリックをよろしくお願い申し上げます。<(_ _)>
http://blog.livedoor.jp/dqnplus/archives/1098483.html








カブトエビのすべて"
―生きている化石“トリオップス”
鮭の刺身はしょちゅう食べてます、解凍して売ってるものですが。
クリプトスポリジウムについて教えて頂けたら有難いです。水辺が好きで水を触ったりしますのでちょっと不安になりました。山の清水の飲み場所で飲んだりもしますが安全なのでしょうか。
目から虫が出てくる事態は避けたいです。
シラウオは,地域によって寄生虫の感染(保虫)率が異なるそうで,安全な地域では全く問題ないそうですね。
クリプトスポリジウムは,水道水の汚染で一度に多数の感染者を出すケースが問題になっていて,水源近くに放牧地などがあると危ないようです。