2007年09月02日

生物部百物語(1)副部長編 あとがき

番外編の『生物部百物語』,副部長編は小泉八雲
(ラフカディオ・ハーン)の怪談から『おしどり』でした。

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八雲はご存じの通り,アイルランド人の父と,彼が
レフカス島(古名レウカディオ島)で恋に墜ちたギリシャ人の母との
間に生まれた文筆家で,アメリカで新聞記者や翻訳者として
活躍し,日本にも『ハーパーズ・マンスリー』誌との契約で
日本の文学・美術を取材するために特派されてやって来ています。

当時39歳だった彼は,契約上の不満からすぐ同誌と絶縁,
知友(文部省普通学務局長や東京帝大教授)の紹介で
松江(尋常)中学の英語教師となり,
翌年には旧士族の小泉セツ(節子)と結婚。
日本の文化や気質を心から愛し,帰化して小泉八雲を名乗り
一生を過ごしたハーン。松江城を臨む旧邸が小泉八雲記念館として
残されるなど,もっぱら島根で過ごした印象が強いですが,
松江での暮らし自体はこの1990〜91年の1年2ヶ月ほど。
ただ,急速に西欧化が進んでいた当時の日本で
古代の風俗を残していた島根は彼に不思議な安息をもたらすものだったようです。

幼くして親の離婚や大叔母(祖母の妹)に預けられての生活を
経験したラフカディオは,1人で寝かしつけられた寝室で
幽霊を見て気も狂わんくらいの恐怖を感じるなど
非常に過敏な性格になったといいます。それに
カトリック系の寄宿学校で受けた,恐怖を増幅する宗教教育に
対する反感と,アラブ系の血ももっていたという母の血
への強い意識から,キリスト教嫌い,ギリシャ神話と同様に
超自然の八百万の神が住む日本のような原始的宗教観に
強いシンパシーを感じたのだと考えられています。

で,八雲の代表作といえる『怪談(Kwaidan)』
早稲田大学に招かれ,半年後に急逝してしまう
54歳のときに出版された作品なのですが,
妻・小泉節子(セツ)の回想記「思ひ出の記」等によると
日本の昔話を八雲が書く際には,原本があっても
セツさん(他の人の場合もある)に語らせて,
さらに言葉の響きや読んだ際に与える効果を考えて
アレンジを加えていたそうなのです。

確かに,昔の物語って,伏線でも何でもない出来事が
途中無意味に入るなどかなりテキトーなところはあって,
まして文字にしてしまうと何のそっけもない
「意味無し山無しオチ無し」的になるものが多いですから
自身日本語が読めなかったとはいえ,セツさんにも
読ませるのではなく語らせたというのは
八雲の,ことばに対するセンスの鋭さを感じます。

ですので,『おしどり』の場合でも,
原本である鎌倉時代の説話集『古今著聞集』とは違いが多々あります。
『怪談Kwaidan』収録のこの話の中では,主人公の猟師の名前は
Sonjo」。しかし「古今著聞集」の巻二十にある
男の名前は「馬ノ允(うまのぜう)」。
講談社文庫の平川祐弘編『怪談・奇談』では「ヘルン文庫」の
木版原書における「馬」の草体が「尊」に酷似し
ノの字が薄くセツさんが読み落としたのだという解釈から
「孫允」でも「村允」でもなく「尊允」の字を宛てており,
私の漫画でもそれを採用しました。
(字が潰れて読みにくいんですけど(;^_^))


そして,猟師と雌鳥のキャラもかなり改変がされています。
ともに1〜2ページ程度分量の短編なのですが,
原本では猟師(鷹匠)は別に「空腹だからやむを得なく」
でも何でもなく「くるりをもちていたりければあやまたず」
1羽をゲット。その日のうちに食わず放ったらかしです。
(確かに鳥肉は軒先に吊して熟成させたほうが美味いですけど…)
逆に雌鳥のほうは原本では八雲作品のように烈しくありません。
ひたすら哀しく泣くばかりで去っていき
その後,猟師は不思議に思いながら中1日たち,
獲物袋を見てみると雌の自殺死体が出てくるという結末
(ある意味こっちの方がショック大きいかも)。

また,原本の中に「えがら」という言葉が出てきて妙にひっかかってしまいました。
おそらく死んだ獲物の体を意味する古語なんでしょうけど,
エナガとかコガラみたいな小鳥を殺(や)っちまう姿を想像して,
いくら昔の時代の猟師でもそりゃひどすぎるだろなどと
勝手に考えてしまいました。

※あと,1回,ちょっとだけ余談書かせてもらいますね。
 最後のコマで「もっと怖い生き物の話はないんですか?」
 という件について。


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■関連図書
怪談―KWAIDAN 【講談社英語文庫】
 Lafcadio Hearn
 (→Amazon)
 122頁。耳なし芳一のはなし,雪女,姥桜,おしどり,食人鬼,十六桜,
 かけひき,力ばか,ろくろ首 の9編を収録。

Kwaidan: Stories And Studies Of Strange Things (Classics of Japanese Literature) (ペーパーバック)
 Lafcadio Hearn
 (→Amazon)
 176頁。出版社: Dover Pubns

怪談・奇談 (講談社学術文庫―小泉八雲名作選集) 1990/06
 小泉八雲著・平川祐弘編
(→Amazon)
 ハーン作品の中でも一般に親しまれている怪談・奇談42編を収録。
 さらに巻末に「ヘルン文庫」蔵本から翻刻した原拠30編も収録,
 原拠本とハーン作品との差異について解説がなされている。
 読んで,解説を読んで,もう1度読み返して3度楽しめる,
 知的好奇心的に超読み応えのある1冊。

怪談―小泉八雲怪奇短編集 (偕成社文庫)(→Amazon)

小泉八雲事典
posted by ドージマ・ダイスケ at 19:27| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(1) | 生物部員の雑談 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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生物部百物語(2)新人編p1
Excerpt: ※登場する人物は架空のものであり『いつまでもデブと思うなよ』の人とは全く似ておりません。
Weblog: 萌えろ!高校生物T・U
Tracked: 2008-05-01 19:25
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