ジェンツーの切り抜き写真をカバー表1に使うのが渋いと思うのですが,これはこの写真のペンギンの目に光が入ってるからでしょうか^^(ペンギンの写真を撮るときは光の差す角度との条件が合わないと目に光が入らないんで,目に光が差すペンギンの写真ってなかなかないんですよね) |
ペンギン関連の本はそこそこ買ってきましたが,フルカラーで全種類のペンギンに関するデータを知る情報源として,『ペンギンガイドブック』(2002年TBSブリタニカ),『ペンギン大図鑑』(2019/『ペンギンペディア』2013),そして『ペンギンの生物学』(2020年NTS)といった本に拠ってきました。
※『ペンギンの生物学』は元となる『生物の科学 遺伝』2019年1号持ってたけど,まあ買うよね。
そしてまた新たにペンギン学のバイブルとして登場したこの本。
訳者で日本のペンギン学の生き字引である上田一生先生の手による「役者序言 ペンギン基本文献の系譜と本書の特徴について」「ペンギン学史」「ペンギン保全史」からしてがっつり読み応えがあります。
ペンギンについて全種を網羅して解説する本格的な本になると大抵そうなのですが「ペンギン学の歩みを踏まえた専門的データブック」という立ち位置で発刊された本書は生理学とか解剖学的な要素はほとんどないですがそれ以外の野生のペンギンのデータについてはすべてがあるといっても過言ではない,ペンギン各種の生活史や食性・天敵,分布や環境状況など世界各地(ほぼすべて南半球ですが)の生息地・繁殖地の第一線で研究者たちが生態学的調査で調べたデータの集大成といった本になります。
繁殖地は地図上にピンポイントで示され,体のパーツや卵などの形態データや移動,繁殖時期,繁殖成功率などのデータを表にまとめて掲載。個体数については調査地ごとの経年データが掲載されているのでざっと眺めるだけでもそれぞれの種や繁殖地の消長やこのデータを積み重ねてきた研究者の方たちの労が伝わってきます。
保護のための基礎データという意味合いが強いため,本文解説も季節ごとの行動や繁殖・成長といった生活史や食性なども調査地や年代ごとに明らかになっていることを細かく記載。
更新も文字数も制限のないweb事典が興隆を極めている時代ですが,こうやって本にまとめてあると,調べたいペンギンの調べたい項目を見れば調べたい知識やデータについて少なくとも載っているか載っていないかがすぐわかる一覧性ははんぱないですね。
私はじっくり読もうとすると積ん読になること必至ですので,まずは新鮮なタイミングでざっくりパラパラと目を通しました。
蛇足にもほどがありますが読んだ痕跡としてざっくりと(些末な?)感想を。
ペンギンオイルの捕獲圧食らったペンギン多いなあ…ひどい。 キングペンギン 多いなあ^^(低危険種LC)。これからも安定した数維持してほしい。 抱卵8週間を含め子育てに14か月かかるんだなあ。親と同じくらいに大きくなるのはけっこう早いと思うんだけどひなの成長データ見たい。 エンペラーペンギン オオフルマカモメやトウゾクカモメ,天敵として映画とかにもよく出てくるけど南極にけっこういるんだなあ。 南極観光旅行も影響があるかもしれないのか…。 アデリーペンギン 気候変動での環境要素の影響がすごく複雑…予断を許さないんだなあ。 「亜種はいない」「遺伝的特徴が驚くほど均質」って改めて書かれると南極大陸の海岸沿いぐるりと繁殖地が広がってるのにちょっと不思議な気分。 ヒゲペンギン 南極(圏)ペンギンはコロニーが巨大だなあ。繁殖期以外はかなり北までの広い海域を回遊すると。日本の捕鯨船に飛び込んじゃったりがけっこうあったという話とつながりますね。 ジェンツーペンギン 表現型可塑性とは?からだの形質だけじゃなくて繁殖期間の調整を柔軟にできる行動上の融通のこともいうのか。 キガシラペンギン 足の裏が黒い。いろいろ書いてあるけどNZ観光ツアーの目玉とかあると見に行きたいなあ… キタイワトビとミナミイワトビペンギン 別枠でそれぞれたっぷり紹介。いずれも地球をぐるりと広範囲で生息してるけどキタとミナミで繁殖地は被らないのね。 マカロニペンギンとロイヤルペンギン セットで紹介。マカロニ630万つがいという数といい繁殖地保全の取り組みといい状況は悪くなさそうに思えるけど彼らも予断は許されないのね。とりあえず「イワトビペンギン石油会社」マジ○○○○ シュレーターペンギン・フィヨルドランドペンギン・スネアーズペンギン もともとは亜種同士とも考えられていた。せやなー。特によく似ているシュレーターとフィヨルドランドは生活史が違うのか(あとはくちばしのつけねの皮膚裸出など間違い探し的に細かい違いがいくつか)。 繁殖地の島がNZのEEZから外れてることから報告者によって扱いが違うとかあるのね。 ケープペンギン 個体数の減り方が1976年以降1世代ごとに13%,21世紀に入ってからだけで半減ってすさまじすぎる…。油汚染のほかにホオジロザメ,ヘビ,ミナミアフリカオットセイ,ネコ,ヒョウ,感染症,グアノ採掘による繁殖環境の悪化,餌魚類の移動と減少…脅威が多すぎ。 フンボルトペンギン ペルーペンギン(Pervian penguin)ともいうのか。90年代前半だけで1500羽って,混獲の被害多すぎ…。 ガラパゴスペンギン 繁殖地,赤道の北にもちゃんとあるな。自分の雑学ネタちゃんと成立してる。ヨシ! 7%くらい北半球にいるのね。 コガタペンギン マオリ語も含めると7通りも呼び名があるけど「コガタペンギン」表記を選択。 外来植物が繁殖の妨げになるのきついな…。ハネジロは亜種扱いですらないのか…コガタは遺伝的に2つのクレードに分けられるけれどハネジロ個体はその両方に見られるとの由。なるほど。 マゼランペンギン…「総排出口は小さい」どゆこと?ああ「オスはメスより」か。そりゃ産卵するからメスは大きいだろうな。…何をどう測ったの?? |
巻末の用語解説,ざっとながめてイザべリズムとかセンチネルとかフレイリング,ポリネアといったカタカナ用語や保護関係の用語を追うだけでもためになりますね。
「キガシラペンギントラストがあるならタワキプロジェクトとかGPSは?」(よく知らないので解説があると助かると思っただけですが。GPSのほうはp6にドドンと載ってました^^),「ヘッドモルターがない…」(すぐ忘れちゃって検索してもなかなか見つけられないんで入ってると助かったのだけど…)とか思ったりもして,そのあたりは拡張性のあるwiki方式が恋しくなりますが用語集ではなく用語解説なので本文で全く触れてない用語を入れるいわれはないですし,現状でこれより充実したペンギン関係のweb用語集は存在しないだろうなあ…
ハドリング(p39)やハプロタイプ(p314)など,本文中に(*)印付きで記載されていて用語解説を参照させるのかと思いきや載っていない,用語があるのでこれはちょっと確認していただきたいと思います。
お値段は張りますが,これだけの本を本体5000円で入手できるのですからペンギン好きという人なら一考,ペンギンという生物に関する知識が好物という人ならマストという1冊です。
(飼育下のペンギンについては解説やデータ皆無ですので会いに行くkawaiiコンテンツ)
ちなみに表4(裏表紙)のカバー写真はキングペンギン。 |