実はこの春,私が描きました『マンガ生物学に強くなる』,この春に増刷されまして,第4刷となりました。
ありがとうございます!
目次
【22冊、重版出来!】
— 講談社ブルーバックス (@bluebacks_pub) March 22, 2022
ご好評いただいているこちらの既刊が重版出来いたしました!
『新しい科学論』村上陽一郎
『電磁波とはなにか』後藤尚久
『電気とはなにか』室岡義広
『確率・統計であばくギャンブルのからくり』谷岡一郎
『図解 ヘリコプター』鈴木英夫
『頭を鍛えるディベート入門』松本茂 pic.twitter.com/CRfgQbWPui
『シャノンの情報理論入門』高岡詠子
— 講談社ブルーバックス (@bluebacks_pub) March 22, 2022
『三角形の七不思議』細谷治夫
『高校数学でわかる流体力学』竹内淳
『マンガ 生物学に強くなる』堂島大輔:作、渡邊雄一郎:監修
『非ユーグリット幾何の世界 新装版』寺阪英孝
『脱入門者のExcel VBA』立山秀利
『地学ノススメ』鎌田浩毅
(続く)
※講談社さん…堂島じゃなくて堂嶋です(;^ω^)
みなさんもご存じのとおり,生物学は日々進展が著しい科学。
本書は用語やデータについては高校の生物に沿って(内容については教科書より掘り下げて)描いたものなので,新しい発見や研究結果がニュースになったからといって即古くなるというものではないのですが,教科書も約10年に1度の学習指導要領改訂のたびに内容の一部入れ替えや変更が行われます。
高校の教科書は今年が新課程の教科書切り替えの年。今年の新1年生が使用する教科書から内容が改訂されたものに替わります。改訂の際にはいつもそうなのですが高校生物(科目名は「生物基礎」「生物」)の教科書は物理や化学と比べても変更が多く,2014年に発刊した『マンガ生物学に強くなる』も今回の増刷の際に何か所か内容を更新させていただきました。
店頭や在庫の書籍に関しては最新刷を指定して注文するなどができないので「内容新しくなったので買ってください」というわけにもいかずどうしようと思っていたのですが,電書については更新されますし,3刷までをお持ちの方のためにもここで更新箇所をお知らせしておきたいと思います。
![]() | マンガ生物学に強くなる (ブルーバックス) |
堂嶋大輔・ 渡邊 雄一郎 | |
講談社 |
※明日5月5日までKindleでブルーバックス電子書籍購入すると半額ポイント還元中。
本書も対象です!
■変更点1:ヒトの細胞の数(p19)
旧

新

ヒトの細胞の数は過去に発表されている研究では1兆から10京のオーダーまでいろいろな説が出ていたのですが,日本では長らく「60兆」という数が定着していました。
これはざっくり言うと,ヒトの比重はほぼ水と同じなので,ヒトの細胞の平均の大きさを見積もって1個の重さを1μgとすると体重60kgの場合60兆個になるという計算。
37兆という数字は,細胞の種類ごとに数を概算して集計したもので,体重70kgの男性のモデルで概算されたもの(だから子どもや体重の小さい人だと細胞も少ないことになりますし,体の大きい人だともっと多い可能性がありますね)。本書が発刊された時点でも盛り込んでいたのですが,『はたらく細胞』のアニメ主題歌に37兆の数字が盛り込まれ一気に人口に膾炙したこともあり,60兆の数字は削除することにしました。
■変更点2:活性中心→活性部位(p33,p82)

酵素が作用する対象の物質(基質)と結合する部分の名称を変更。
■変更点3:キネトコアの語を加筆(p105)

細胞分裂の際に紡錘糸がつく染色体の部位「動原体」について,DNAの領域(セントロメア)と紡錘糸が接続する構造を区別するために日本遺伝学会が用語集改訂の際に「キネトコア」の語を提唱。
■変更点4:「優性・劣性」→「顕性・潜性」(p210〜217,221)
今回の変更点で最も大きく,世間でも知る人の多い用語変更。
日本遺伝学会が用語変更を公式に提唱した際にはニュースにもなりましたね。あれからもう5年経つことになりますが,教科書では昨年2021年から中学理科(3年)で,そして今年2022年から高校生物(生物基礎)で用語が切り替わることに。





日本遺伝学会は「対立遺伝子」について「アレル」への変更を提唱。
DNAの塩基配列の違いにすぎず,「対立」の要素がないものについてこの用語は適切ではないとのことですが,学校の先生もいきなり変えられてもアレルとは何か概念から教えなければならなくなり混乱必至ですのでこの新課程では教科書で扱う場合には併記でいくことになると思われます(「生物基礎」では扱いがなく,扱いがあるなら来年から使用が始まる「生物」にて)。




■変更点5:「色覚異常」に関する記述(p222)

教科書では出版社によって表記のぶれがありつつも「色覚異常」の表記が主で,新課程ではおそらく扱いそのものがなくなっていくとみられ,正解がない状態に。
後天的に色覚が失われることは病気として普通にあるので日本眼科学会としては差別という認識はないということか「色覚異常」の語は普通に使用。日本遺伝学会はcolor blindnessに対応する日本語として「色覚異常」(「色盲」とは言わない)は残しつつも生命科学の教育用語として「色覚多様性」(color vision variation)を提唱しています。
これについては,「バリエーション」というとたくさんあるうちの1つという意味で使えなくもないですが「多様性」と言ってしまうと「たくさんある状態」としか私は解釈できないので,この語に置き換えるのはできないと判断しました。個人的には「色覚タイプ」でいいんじゃないかと思うんですが。
ヒトの遺伝形質(遺伝病)についてはかなりデリケートな要素を含むため,初版でも最新刷でもこんなぶっちゃけた個人の見解を容認してくださった講談社さんには本当に感謝です。
■変更点6:「ハンチントン舞踏病」→「ハンチントン病」(p232)

これも日本遺伝学会の遺伝学用語集『改訂遺伝単』に拠りました。
※「遺伝単」の改訂版は2017年発行のもの(『生物の科学 遺伝』別冊No.22:絶版)もありますが,絶対2021年のものを入手してください。索引や英和・和英対訳集など格段に充実しています。
■変更点7:「酵母菌」→「酵母」(p40)

酵母は単細胞でアルコール発酵をする生物ということで乳酸菌などと同じ細菌(バクテリア)と思われがちですが実はカビのなかまで菌類。菌類の生物も子嚢菌,担子菌といった語はあるので細菌だけを「○○菌」とよぶルールではないと思いますが,一般的な呼び方に寄せた形になりましたね。
■変更点8:「細菌類」→「細菌」(p40)
まちがいではないのだけれど変えさせていただいたのがこちら。


中学理科の教科書では「細菌類」(中3 生態系のしくみにて分解者の例として扱われる)で,高校生物でも「細菌類」だったのですが,現在は「細菌」になっているため変更。カビやキノコのなかまの「菌類」はそのままなので,おそらく「細菌(バクテリア)」と異なる系統の原核生物「古細菌(アーキア)」が登場する高校生物では「細菌類」と書くと,バクテリアのことなのかアーキアも含むのかまぎらわしくなるからということなのではないかと思います。
というわけで,今年春の増刷(重版)における『マンガ生物学に強くなる』変更点は以上です。
生物用語は10年ひと昔でどんどん変更されるので,本書の改訂箇所に限らず教科書の用語変更について過去にも遡ってまた触れられたらと思います。
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■本書に関する過去エントリ
ジャンル:本を出すぞプロジェクト