東京・豊島区にあるサンシャイン水族館にて2021年12月25日(土)より飼育・翌12月26日(日)より展示の個体が国内展示最長記録を大幅に更新しました。
前回のエントリでは,過去の実績をはじめとした他の水族館でのメンダコ飼育の状況について紹介し,その中でサンシャイン水族館は見やすい展示をしていることについて書きました。
今回は,メンダコ四天王の中でも唯一海に面しておらず調達面で一番ハンデのあるサンシャイン水族館が記録更新を果たしたのか,その秘密に迫りたいと思います。
2022年1月22日撮影
メンダコ飼育最長記録更新の秘訣
サンシャイン水族館でのメンダコの展示は企画「ゾクゾク深海生物」のスタートと連動してのもの。
同企画開催中に実施されたバックヤードツアーおよびトークイベントがあったのですが,深海生物の採取や飼育に関する映像付きの解説と,その後の質問タイムにて聞くことができた話は,海から離れた立地というハンデのあるサンシャイン水族館において今回のメンダコが突出して長く生きられたことに合点のいくものでした。
1.いい状態で捕獲できた
もうほとんどこれに尽きるといってもいいというか,ここをクリアしないとどうにもならないポイント。
テレビなどの深海魚ハンター企画では釣りで大物狙いをすることがよく行われますが,水族館で飼育される深海生物の採集は漁船の底引き網で行われます。
そのため,捕獲される深海生物は網の中でからだのやわらかい魚類や軟体動物もからだの固い甲殻類なども一緒くたになるわけです。
メンダコ自体はそれほどレアな生物ではなく1回の網で数匹はかかるそうですが,体表が寒天質のメンダコはよほど運よく他の生物の上に乗る形で引き揚げられないと体表がずたずたに傷ついて飼育には耐えられない。
漁港に近い水族館では地元の漁師さんが網にかかった珍しい深海生物を持ち込んでくれるネットワークができていることも多いですが,メンダコはこのように傷みやすい上に,死ぬととても臭くなる,そもそも食用に適さない生物なので,今回の深海生物企画に向けての漁のように水族館スタッフが乗り込んた採集のための漁でなければ,メンダコが水族館に入ってくる機会は原則ないということになりますね。
※沼津港深海水族館では水族館スタッフが乗り込まない通常の漁でも,いい状態でメンダコがかかったら漁師さんがとっておいてくれることもあるため,例年春になってもメンダコが入り展示可能となることがあります。
また,よい状態で採取できたメンダコをできるだけ弱らせずに水族館へ運ぶことも重要。
水中ドローン調査などでメンダコの生息する環境の水温は11℃前後と確認されているため,海表面や気温の低い冬に採取を行い,凍らせたペットボトルで海水温を低く保って運搬しました。
また,水圧の変化については無脊椎動物は比較的影響が小さい(魚類は急に水圧が小さくなると浮き袋がふくらんでしまうためダメージが大きい)と考えられていますが,懸念事項は極力なくすべく,加圧容器に入れて自動車で水族館まで運んだとのことです。
深海生物運搬用加圧容器
2.飼育環境を万全に整えた
水質については説明や質問で確認できていないですが(サンシャイン水族館の海水は八丈島沖で採取したものを使用),水温は前述のようにメンダコが生息していた深海の水域と同じ約10℃を維持。
そして,エサについてはこれまで採取された個体の胃の内容物からわかっていたエビやヨコエビを与えているそうです。
(どうやって調達するの?と思いましたが,細かい種は別としてヨコエビ自体はイカの水槽などに生きたものが普通に飼育されているようですね)
手元にあった唯一のヨコエビの写真(海遊館で撮影)…こんな色のついたものが普通というより,だいたいヨコエビは小さく白っぽいのが多いかと思います。
\捕食失敗編【前編】/
— サンシャイン水族館 (@Sunshine_Aqua) February 15, 2022
2/15も #メンダコ は元気です。
餌のヨコエビが元気すぎて餌を捕まえるのに苦戦するメンダコ動画です。
動画が長いので3部作です。
ちなみに今日で展示52日目(飼育53日目)です。
日本一の飼育記録のメンダコになりました!#サンシャイン水族館 pic.twitter.com/tvopbWAkoQ
あとは深海と異なる環境要因・光について。非常に敏感な生物もいると思いますが,メンダコについてはサンシャイン水族館では多くの水族館における「深海」水槽よりはずっと見やすい明るさ。他の水族館でもフラッシュ撮影禁止などの常識の範囲の展示で大丈夫と考えていいのではと思います。
ニュースリリース:深海のアイドル「メンダコ」の国内展示最長記録達成!
国内展示最長記録更新3つのポイント
(株式会社サンシャインシティ 2022年2月16日)
飼育最長記録は78日(展示77日)で確定
〜お知らせ〜
— サンシャイン水族館 (@Sunshine_Aqua) March 13, 2022
昨日、#メンダコ の死亡を確認しました。
展示77日(飼育78日)でした。
解剖した所、抱卵していた事が分かり、卵(直径約5mm)の一部を回収し、現在バックヤードに収容しています。
順調に生育してくれるか分かりませんが、大切に飼育を行います。
皆様、応援ありがとうございました。 pic.twitter.com/WjkgvrCeGb
飼育展示日数の記録は77日で止まりましたが,卵をもっていたことが明らかとなりました。なのでもともと寿命だった可能性もあるのでは…とも思っています。(深海生物イベント期間ということでバックヤードに移っていますがサンシャイン水族館で飼育中の巨大なミズダコも一度卵を産んで子育てが終わると死んでしまいますし…。メンダコは約20cmくらいまで大きくなるのでもう1まわり成長する余地があった可能性もありますが)
過去の例からメンダコの卵は約9か月で孵化するそうですので,史上4施設目となるメンダコの孵化,そして育成が成功するよう心より願います。また,この77日の飼育経験がベース・基準となって,季節や年,世代を超えて飼育し続けられる知見・飼育技術が進展していけばと思います。
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■過去のエントリ
◆サンシャイン水族館
【新記録】メンダコ飼育・サンシャイン水族館の偉業とは(前)
【行ってきた】沼津港深海水族館に1年ぶりに行ったらグレードアップしてた(2015秋)(2015年11月03日)
【行ってきた】 沼津港深海水族館(1)(2014年11月24日)※(4)まであります
【行ってきた】 圧巻のタッチプール♪噂の竹島水族館行ったった
”水族館”を含むエントリ