映画『プラスチックの海』
『プラスチックの海』
(A Plastic Ocean WE NEED A WAVE OF CHANGE 監督:クレイグ・リーソン)

プラスチックが腹に詰まって死ぬ海鳥たち,国土がごみに埋まり健康被害も出る島嶼国の人々,太平洋の真ん中でも海水中に分散しているマイクロプラスチック,コンテナ船の事故で大量に流出するプラスチックペレット…一方で景観改善と意識改革で浄化に成功したマニラの川,プラスチックを資源に変える画期的技術,ドイツで進むデポジットとリサイクル制度…
ここ2,3年前頃から一躍報じられるようになってきた問題の大きく深刻な現状と一方で見えてきている光明を,10年前からの取材で掘り下げてこれ1本で一通りわかる形に情報を凝縮,動物たちや人々の健康や生命を脅かしている現状がリアルに伝わる映像と編集でまとめ上げた映画でした。
ネタバレになるのでどのくらい具体的な内容を書いていいのかわかりませんが,
冒頭,シロナガスクジラの撮影の様子で始まり,シロナガスクジラには2種類いるとか,警戒心が強くなかなか近づけないとか,独特の動作で垂直に潜っていくとか,普通の動物番組のような話が続き,クジラのいい映像が撮れたねえ…と思ったところで視点が移ると,カメラマンのまわりの水面にはたくさんの小さなごみと汚い油が漂っていて思わずうわっとなる展開。絶妙なつかみで完全にやられました。
スリランカ内戦で漁業が止まり手つかずのきれいな海のはずの10km以上沖のインド洋でこの現状。
「20世紀に生産された量のプラスチックがこの10年で生産されている」
「この映画が始まってからここまでの時間で1600トンのプラスチックが
アメリカで消費されている」
などのデータが場面間に挿入され,プラスチック生産・消費国の上位が
中国・タイ・フィリピン・インドネシアなど東・東南アジアに
集中していると示されると,日本も全く他人事じゃない。
というか,全世界の海はつながっているので
大洋の深海にペットボトルや糸などが沈み,
世界中の海面近くにマイクロプラスチックが漂い,
化学物質を吸着したそれをプランクトンや稚魚たちが食べ,
汚染物質を脂肪組織などに取り込んでいく。
朽ち果てた海鳥の死がいと体内に蓄積していたプラスチックごみを
アート作品のように写した写真,以前Twitter経由で見たことがありますが
この映画では衰弱して死んでいく海鳥や,遺体を解剖して体重の1割以上にも
達するプラスチック片を胃から取り出す様子も映し出す。
プラスチックを料理の種火に使って目や頭が痛いとか言ってる
(そんなものだと特に気にしてない)フィジーのお母さんお姉さん
2代目スモーキーマウンテンでごみを拾ってお金を稼ぎ
半分くらい浮いたごみで覆われてる海で遊んでる少年たち
ここ20年もかからず輸入品から出たプラスチックごみで一気に
国土が埋め尽くされ,がんや不妊が増え,
魚ももう人間の食べ物ではなくなったというツバルの人たち
映画のなかではプラスチックを焼いた際に放出したり
ふつうに食品容器に可塑剤として含まれ流出の危険がある
汚染物質としてフタル酸エステルなどの内分泌かく乱物質
についても取り上げられていました。
20年ほど前には日本でもよく報道され,高校生物の教材でも
取り上げられていたのですが,当時の「環境ホルモン」という
俗称が適当でない,学校や一般使用の焼却炉が一掃され
代表格だったダイオキシンの発生問題が落ち着いたことなどから
今ではほとんど取り上げられなくなっており,久しぶりで新鮮でした。
一方で,環境浄化に成功した取り組みや,ペレット流出時に
SNSで情報共有し生産者の中国企業幹部を含む大勢の有志が
人海戦術で回収に取り組んだ例,プラスチックごみを資源に
変換する装置,ドイツで進むペットボトルデポジット(1本
25セント!)とリサイクル制度(1トンあたり1000ドルレベルで
利益になるって本当!?)など,この問題に対して希望となる
話題についても取り上げられていました。
●海洋プラスチック問題トークイベント
トークイベントは,
アーティストの藤元明さん
イラストレーターのぬまがさワタリさん
サンシャイン水族館の丸山克志館長が登壇。
のっけから藤元明さんの
「皆海はきれいだと思うから海が汚れるのは問題だ,
きれいな海を取り戻さないといけない,って思うけど
もともと海は汚れている。
親子三代で海女さんやってる人に聞いたら
昔から海の水は汚かったって言ってる」
と,ぶっ飛んだ発言でスタート。
どうなることかと思いましたが,
観光ビーチでは毎日人がきれいにしていてゴミが目につきにくい一方
人が来ないような小さな島の入り江などでは2mも積もったごみが放置されていたり
プラスチックを溶かして燃料にするプラントが公費でできても
できた燃料より新品の石油燃料のほうが安いからと稼働をやめていたり
企業が環境アピールでエコバッグを大量に作ってそれが山積みになって
エコとつけば何をやってもいいみたいになっていたりと
多くの場に赴いて海の現状をその目で見,
その場で生活する人や行政の現状を直に聞き,
数々の環境への取り組みの現状を見てその難しさを実感してきた
からこその発言だったんですね。
(海女さんの体感の件については
日本は昭和の高度成長期にいちど大公害時代を経ていて
その頃と比べると河川や近海は格段に水質改善している
という面もありますしね)
ユニークな動物紹介イラストが数々の単行本となり
環境問題での発信も活発になされているぬまがさワタリさん,
水族館でごみの水槽などの展示や環境教室などの取り組みを
されているサンシャイン水族館の丸山克志館長も
問題だから〇〇をしよう(〇〇ができる)というような
メッセージ的な掘り下げにはとても抑制的で,
人間の暮らしの大元は変えられないという前提から
トークは展開していきました。
「人々の生活のしかたは昔も今も変わらなくて
ただ,技術・素材が変わっているだけ。
映画では語られなかったけれど海洋プラスチックは漁網なども
ゴーストギアと呼ばれて大きな問題になっていて,
昔は麻などで使われなくなったら分解されていたけど
丈夫で便利なプラスチックに替わって,半永久的に残るようになってしまった」
(映画内でも,「海のプラスチックごみは8割が陸から」と
示されていましたが,逆にいえば2割は海で発生している
わけで,それはめちゃめちゃ多い量ですよね)
「とても大きな問題が起こっていることは
心がざわっとするように伝えないといけない。
ただし,お前が悪い誰が悪いという話になると
見るほうはイラっとしてしまう。(この映画は)そのバランスが絶妙だった」
「難しいことを難しいまま伝えると理解してもらえない
情報をそぎ落として簡単にすると失われるものが大きい
そのバランスが難しくて常に葛藤がある」
活動家(社会起業家)の方とか科学者の方が入ったシンポジウムだと
どんな取り組みができるかといった来場者の行動に直接つながるような
情報提供など具体的に踏み込んだ話になるものですが
(ごみ削減などの具体的な行動指針,清掃活動等への参加や寄付などですね)
今回はトークゲストの3方とも表現者の立場ということで
伝え方の難しさという点にフォーカスして語られていて
何を受け止め何を考えるか,何か行動を起こすのかは
完全に映画とそれを見た来場者にゆだねるスタンスになっていたのが印象的でした。
「人間は,目の前に問題が起こっていなければ
なかったことと同じにする。そもそも動物だって
環境のために気を使って生活しているものなんていない。
特に日本人は,誰かがやってくれると考えがち。
1人1人が,清掃活動に参加するとか
小さなことでも自分から動くことが大切だと思う」
「ここに来ている人たちは動物に興味のある人が
ほとんどだと思う。動物について学ぶことは
環境を学ぶことに行きつく。これからも好奇心を持ち続けて
学び続けることが世界をよくしていくことにつながると思う。
自分もその一助になれるよう努力したい」
「子どもたちに生き物・環境教室を開いて
食物連鎖について教えるとき,人間はピラミッドの頂点に
いるというけど,社会生活をしないで科学技術を手にしていなければ
生き物としてのヒトは弱い存在。頂点にいさせてもらうなら
こんなに環境を汚すのは人間だけなのだし
責任を果たさなければならない」
●映画の個人的感想
私自身は,映画の中では
ごみの回収・処分のしくみが未整備な国の現状が
あまりにもインパクト強くて,海を汚染する脅威の関与度や
改善の伸びしろとしては日本や先進国がちょっとライフスタイルを
見直すとかよりODAでも何の形でもいいので環境インフラへの
投資をどんどん行うのが喫緊に必要なんじゃないかと感じました。
(「今,自分にできること」とはかけ離れていますが(;^ω^)。
この映画には日本は登場しませんでしたが,映画内のアメリカと同様
食品でもなんでもすべて石油製品包装されていて
ごみを大量に生む生活様式になってますし,いうほど
リサイクル率が高くないという実情はあるんですけどね)
■大丸有SDGs映画祭について
この上映会トークイベント,
昨年から始まった「大丸有SDGs映画祭」のサテライト上映という形のイベントだったのですね。
(大手町・丸の内・有楽町の6会場で10作品とショートフィルムを上映)
ちょうど半分の上映が終わったところで,
5作品+ショートフィルム3本の上映がまだ残ってます。
大丸有SDGsACT5
※「サステナブルフード」「気候変動と資源循環」「WELL-BEING」「ダイバーシティ&インクルージョン」「コミュニケーション」の5テーマでアクションを展開。
ほかにも国際芸術祭「東京ビエンナーレ」が行われていたりさまざまな催し・取り組みがありました。
この日参加した成人来場者には主催の三菱地所Gさんから
イベントの地元丸の内にちなんだお酒のお土産がありました。
ありがとうごさいます。
●サンシャインシティ ECOアイデアコンテスト
まだ十分期間が残ってますね。〆切2021年11月7日
小学生・中学生の方はぜひ。
テーマ「ゴミの分別」 豊島区長賞,サンシャイン水族館賞等
●藤元明さん・ぬまがさワタリさん・丸山館長について
藤元明さんのアート作品,期間中はこの上映会場ともなった
サンシャインシティ・アルパ地下1階の催事場にて展示。
サンシャイン水族館でも一部が展示されています。
Instagram https://www.instagram.com/akira_fujimoto/?hl=ja
Facebook https://www.facebook.com/akira.fujimoto.923
●ぬまがさワタリさん
ユーモラスでかわいらしくわかりやすい画風と
絶妙にリッチな情報量で素敵な生き物&カルチャーについて発信。
映画紹介ツイートにも唸らされます。
Twitter https://twitter.com/numagasa
note https://t.co/LbDgo8sJxg?amp=1
blog https://t.co/Ybb5Co7HHK?amp=1
●丸山克志館長は,東京水産大(現東京海洋大)卒業後入社,
飼育・展示スタッフとして魚類を中心に担当,
1991年のしながわ水族館オープンや2011年のサンシャイン水族館
リニューアルに携わり,2015年より現職。









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