今年は12月5日(土)にオンラインで開催されました。
市民ZOOネットワークエンリッチメント大賞2020〜YouTubeチャンネル
https://www.youtube.com/channel/UClYn_MSOvm7q1vxkKt6dEqA
前回紹介しました
■大賞■ 札幌市立円山動物園
「21世紀のゾウ飼育の最低条件を寒冷地で実現させる試み」
■敢闘賞■横浜市立金沢動物園
「インドゾウに対するQOL向上の取り組み」
に続き,今回は残る3賞について。
■グッドアイディア賞■
相模川ふれあい科学館 アクアリウムさがみはら
「ミヤコタナゴの人工産卵床の開発および展示水槽への設置」

神奈川県相模原市,利根川にほど近い「アクアリウムさがみはら」
約100種の魚類・水生生物を飼育展示


ミヤコタナゴは日本の固有淡水魚。
国の天然記念物で生息数が激減しています


ミヤコタナゴはイシガイ科など淡水生二枚貝を産卵床として利用。
出水管に産卵管を挿入して産卵
入水管近くに放精して貝の体内で受精・孵化・仔魚まで成長します
これまでの繫殖方法は

淡水生二枚貝を利用する自然産卵と
魚の腹部を圧迫し採卵および採精して行う人工受精がありますが

・貝を多数使用することもあるのに対し飼育技術は確立されていない
・産卵するとしばらく使用できない
人工授精は
・人為的な親魚の選択による遺伝的偏り
・絞り出した卵や精子の配偶子形成が不完全であるおそれ
といった問題がありました
また,展示水槽とバックヤードのどちらで繫殖させるのかというのも悩ましい問題

バックヤードの予備水槽は魚の取り上げがしやすいが来館者から見えない。
展示水槽は魚の取り上げがしづらくなかなか繫殖が行われていない
そこで新たな人工繁殖装置の開発への取り組みを。

過去の研究を調べると採卵装置産卵床などの論文はあるが
再現しても成功せず新規検証が必要に。
・淡水生二枚貝の利用数を抑える
・自然産卵
・設置が簡単
の3つの条件を満たした人口産卵床の開発と設置を目指す

ポリプロピレン製,直径10cm・高さ8cmのパッキン付き容器
小型ポンプとシリコンチューブを組み合わせた装置。
出水管と入水管に見立てた2本のチューブを突き出した構造に


結果,展示水槽で見事に雌の産卵行動,雄の放精行動を発現。
(すぐに雄のなわばり行動,雌ののぞき込み行動は誘発されたのですが
さすがに容器だけではミヤコタナゴも生殖行為に至るまではいかなかったので
本物の貝を容器内に入れてにおいで誘引)
ただし,受精率・ふ化率はいまいちで,より研究改善の余地も。

このミヤコタナゴの繫殖研究において忘れてはならないのが
産卵床となる二枚貝の生態。
実は利用されっぱなしでなく,貝も幼生時代に魚のお世話になっている。
自然界は絶妙のバランスと複雑な関係で成り立っている
ことを改めて教えられる という発表でした
■技術賞■
世界淡水魚園水族館 アクア・トトぎふ
「地下伏流水を再現した飼育設備によるマホロバサンショウウオの繁殖」


黒い体に銀の星をちりばめた姿がきれいでかわいらしいマホロバサンショウウオ。
「かわいらしいことも特徴」という紹介にはんぱないサンショウウオ愛を感じます^^

日本に生息するサンショウウオ(オオサンショウウオやイモリ類を除く)は44種類。
うち,キタサンショウウオ以外の43種は日本固有種。
小型サンショウウオは卵から幼生時代を水中ですごし
成体に変態して肺呼吸で陸上生活するライフサイクル

産卵場所は大きく分けて止水産卵性と流水産卵性の2タイプ

生息環境を調査し,地下水・伏流水の豊かな場所で
水の流れる穴の中で産卵する環境を再現すべく飼育層と
遮光して暗い状態を保った産卵槽を用意


暗い産卵槽で見事に雌雄の集団が産卵・放精行動


無事に孵化・幼生から成体まで育てることに成功。

自然の水生生物の生態には謎が多く残されていて,
地下・伏流水で繫殖しているものも多いと考えられている。
生息場所のフィールドワークを重ね飼育に生かせたこと
その飼育によってさらに自然の生態がわかっていくこと
動物園・水族館には日本動物園水族館協会が制定する「繁殖賞」が既にありますが
野外調査を活かして環境の再現を成し遂げ,個体に環境の選択肢を与えるなど
行動の変化を定量化しにくい両生類のエンリッチメントにおいて
特筆すべき成果と評価されての受賞となりました
■奨励賞■
大阪市天王寺動物園
「高齢ラクダへの取組み」


大阪らしく「ヒトコブラクダ→ウメコブチャ」という“紙芝居滑り芸”で始まった授賞講演。
ここでの主人公は28歳のヒトコブラクダ「ジャック」(♂)


ジャックに負担のかからない形で毎日体温測定・体重測定,
採血や歯の診断を行い「正常値を知ること」で健康管理につとめていますが
長生きはできても,それで幸せなのかという問題意識がありました

一日で寝ている時間が長くなり運動不足で足腰が衰えていくジャックの生活を改善できないか
大阪ECO動物海洋専門学校の学生さんの卒業研究と共同で
生活の質の向上に取り組むことに。
学生さんたちの尽力もあり環境整備などで行動を促す
6つのエンリッチメントを実施。
・給餌台増設
・水飲み台設置
・フィーダー2つ設置
・枝3か所設置
・雑草除去
・土均し


1日の6割以上寝ていた生活リズムが逆に6割近く採食にかける行動比率に。



2割以下だった「立位」が3割以上に向上して「座位」と逆転。
運動量が増えることで寝たきりになるときを遅らせることに成功していると考えられる

学生さんたちの卒業研究終了後も明治大山本誉士氏と共同で
行動データを継続測定。
高齢動物の福祉というこれからより必要となる機会が増えていくテーマについて
科学的研究手法を活用して,起こりうる問題を未然に防ぐという
明確な目標設定とともに改善に取り組むプロセスが評価され
奨励賞の受賞となりました
以上,2020年受賞した5つの取り組みでした。
正式な授賞式の動画がupされたら見てみてください!
私もパネルディスカッション等当日未配信のパートも含め
絶対見ます^^
また,5つの賞に至らなかったものの
一次審査を通過した取り組みも意欲的・印象的なものが目白押しで
来訪して確かめたくなりますね。
オンラインポスター発表
→ http://zoo-net.org/enrichment/award/2020/poster/20201205_poster.html
「エンリッチメント大賞2020」
→ http://zoo-net.org/enrichment/award/2020/index.html
審査委員
岩田 惠理 氏 (岡山理科大学獣医学部 教授)
川端 裕人 氏 (作家)
幸島 司郎 氏 (京都大学野生動物研究センター 教授)
佐藤 衆介 氏 (東北大学 名誉教授/八ヶ岳中央農業実践大学校 畜産部長)
本田 公夫 氏 (元 Wildlife Conservation Society
展示グラフィックアーツ部門 スタジオマネージャー)
市民ZOOネットワークFacebookページ
→ https://www.facebook.com/networkforzooenrichment
◆過去のエントリ
オンライン!エンリッチメント大賞2020授賞式(前編)(2020年12月06日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(4)葛西臨海エトピリカ&長野飯田市ニホンカモシカの環境改善(2019年12月31日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(3)駆除動物をご馳走に―大牟田市動物園の屠体給餌!(2019年12月31日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(2)柴田典弘さんとトナカイ (2019年12月29日)
熱かった!エンリッチメント大賞2019(1) (2019年12月22日)