2019年12月31日

熱かった!エンリッチメント大賞2019(4)葛西臨海エトピリカ&長野飯田市ニホンカモシカの環境改善

『エンリッチメント大賞』2019年表彰式・受賞者講演会のレポート,
(1)全体の流れ
(2)秋田大森山動物園のトナカイ放牧等エンリッチメント
(3)福岡県大牟田市動物園の屠体給餌
について,紹介しましたが
締めくくりとしまして,外部提携が重要な役割を果たした取り組みについて,
ツイートで紹介した内容に補筆して紹介したいと思います。


■大賞(技術賞)■
海鳥の遊泳を促す採食エンリッチメント

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葛西臨海水族園 野島大貴さん
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取り組みの対象となった課題は
「飼育しているウミガラスとエトピリカがあまりプールに入らずほとんど陸地にいる」
海鳥を飼育しているのにその魅力を伝えられていないという展示上の残念さのほかに
足への負担が増え「しりゅう症」という病気になる問題があるのですね

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同じ海鳥のペンギンの場合,逆に足裏の健康のためにお散歩させるケースもあったり,
(ペンギンはたいてい終日海上にいる期間があるのですが)私の見る限り
近縁種どうしでも長距離渡りの習性があるマゼランのほうが定着性の強いケープより
水族館のプールで泳いでいる割合が高い傾向があるので(個人の印象ですが),
水の上にいたければ普通にいるんじゃないか,陸にいるにこしたことがないから
陸地にいる時間が長いのではないか と思ったりするのですがそういう訳でもないようです。

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そこで
えさの35%を水中にまき,残る65%を陸上で与える比率を変え,
毎日決まった時刻に2回与えている給餌パターンも見直す
また,キビナゴ・オキアミ・ワカサギ・カタクチイワシの4種のえさのうち
キビナゴだけ水中にまいていた点にも変化をつけてみることに


その結果,水中で与えるエサの量や回数を増やすことで一定の効果が認められました。
(作業負担の問題から従来の2回に1回だけ加えても効果あり。
いつ1回増やすかは,比較的空腹な午前中が効果的)
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しかし,調査の精度や労力という点で壁に突き当たります。


●ここで外部連携キタコレ♪
授賞式でも一緒に登壇されていた東大大気海洋研究所の佐藤信彦さんと意気投合!
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バイオロギング手法で,個体の区別も行動内容(加速度や高低差)も
自動記録されることになり精度も労力も格段に向上!
ビデオを見て人の目で観測していたときとは雲泥の違い。
お金も持ち出し特に無し(これ大事)
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この手法で調べると,
従来の1日2回に1回時間ランダムの給餌を加えると給餌の時間以外も着水時間が増え,
キビナゴ以外のエサのほうが採餌時間がのびることがわかりました。

給餌回数を2回から3回へ
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普段経験していない時間帯に給餌があった
という日常への刺激がもたらした効果であると考えられる。

エサの種類と採餌時間
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※オキアミ…えさが散らばるので採餌に時間がかかる
※ワカサギ&カタクチイワシ…油分があり水に臭いが残る


さらに4種のえさの混合給餌を検証して
ウミガラスとエトピリカで好みが分かれることがわかったり
これらの取り組みによって着水時間が2倍以上に。

エトピリカとウミガラスでは好みが異なる
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しりゅう症は改善したか
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(一度かかると完治困難な病気なので現状維持以上が目標。
 悪化は高齢で水に入れない個体)


●この成果を踏まえ,
園内では飼育環境の向上(魚群との混合飼育)
そのほか外部との研究提携や生息域の保全,
教育普及へと発展させるべく活動していくという報告でした。

次のステップは「環境の改善」
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この「海鳥の生態」の展示コンセプトは「魚群との混合展示」
今の状態で水中に魚を放すとすぐに食べつくされてしまうので
魚の隠れ家として擬海藻を水槽に設置

ウミスズメ科の水中採餌成体に関する共同研究
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2019年から「飼育動物のQOL評価を目的とした包括的研究」
・科学的な知見に基づき,動物福祉に配慮した飼育展示を行う
・飼育設備および飼育面積の変化が海鳥の運動量に与える影響の評価
・窒素炭素安定同位体対比分析
 (13Cや15Nが含まれる比率を調べることで,その動物が食物連鎖のどの位置にいるか,
  食物連鎖のスタートにあたる一次生産者の種類といった情報が推定できる研究ですね)

生息域外から生息域内へ
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One Plan Aproach
動物の福祉と保全を第一の目的稔,動物園・水族館が専門家や関係者と共に
野生動物と生態系の生息域内,生息域内における保全計画の構想から
実施まで行う統合型の保全計画
→飼育環境の改善 東京大学大気海洋研究所
→生息域内保全  環境省北海道地方環境事務所 羽幌自然保護官事務所

おわりに
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研究者が全面的に協力してくれたおかげで科学的な評価を得ることができました。
しかし,これは得られたことの一部分にしか過ぎません。
この受賞をきっかけに研究者と飼育員が連携する取り組みが増えることを期待します。

双方の知識と技術を活かしあうことで,海鳥の着水を促す効果的な
エンリッチメントをつくりあげてきました。
今後,多岐にわたる分野のプロフェッショナル達が力を合わせることで
より良いエンリッチメントの開発・普及が進んでいくことを期待します。

まずは自分が楽しむ!




そして受賞した4件の最後まで一気にいってしまいましょう!

■奨励賞■
ニホンカモシカのマーキング行動を引き起こすためのにおいを用いた環境エンリッチメント

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長野県 飯田市立動物園 前裕治さん
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ニホンカモシカが単独飼育になってしまったためマーキングなどの行動レパートリーが低下してしまった生活環境を,他園の個体の分泌物の匂いで改善。嗅覚刺激を用いたエンリッチメントという新規性が評価されての受賞。
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長野県飯田市立動物園は日本一まちなかにある動物園
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※市役所まで300m
なので現在は小動物中心の飼育展示。

そんな飯田市立動物園が
昨年の「チュウサギのための水流給餌水槽」
(グッドアイデア賞)に続く2年連続受賞!
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まさか2年連続だなんて「目」からウロコ
前さん,職場で「目」のかたきにされてしまう?
ちょっと「目」立ち過ぎ?
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上司にとって「目の上のたんこぶ」かも…
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いやいや,今回はニホンカモシカの
「眼の下のこぶ」みたいな 眼下腺のお話です!

つって。(;^ω^)


最近,世の中の意識が高まって
動物園での動物1頭飼いが問題とされることが増えています。

繫殖年齢を過ぎたような個体はともかく
主に群れで生活する動物について,
その園に1頭しかいない状態で買うのは残酷であると
批判を受けたり,園の側も個体を譲り合って複数頭飼いするようにしたり
手放したり亡くなったりした園ではもうその動物を飼育しないと決めたり
する動きが広まっています。

もともとニホンカモシカというのは縄張りをもち単独生活をする動物。
しかし,飯田市立動物園では雄のタケシ1頭になってしまったため,
眼下腺から出る分泌物をそこら辺になすりつけるマーキング行動がなくなり,
目の下に分泌物がたまる状態に。
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なんとかできないか?
191231エンリッチメント大賞161_1207 (230)スライド_飯田市立動物園_ニホンカモシカ.JPG
健康面では大きな悪影響はないだろうが…
・行動量の減少
・野生本来の行動の減少 →カモシカの魅力を引き出せていない。


動物って必要のないことは即やめてしまうんですね(;^ω^)。
そこで,他個体の分泌物のにおいを嗅がせることで
行動バリエーションの豊かな生活が取り戻す試みを。

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埼玉県こども動物自然公園の雌個体の分泌物をいただいて,
媒体は安くて扱いやすいワリバシを使うことに。

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191231エンリッチメント大賞162_1207(239)スライド_飯田市立動物園_waribashi .JPG


●色々検証項目を重ねてちゃんと調べてるんですけど
結果を言いますと,
しっかり眼下腺こすりや額こすりの場所や回数が増加,
恋鳴きなどの行動が復活。

わりばしはビニール袋に入れて常温保存でも
数か月前のものでも効き目がみられました。

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そしてさらなる詳しい研究・調査を
…というところで,今年,このエンリッチメントの取り組みは続行できなくなりました。

なぜかというと,雌のニホンカモシカを1頭お迎えしたから。
191231エンリッチメント大賞170_1207(256)スライド_飯田市立動物園_ニホンカモシカ_マーキング_終了.JPG
かねてより要望していた埼玉県こども動物自然公園から10月に来園。
その臭いがするので匂いワリバシは不要に。

以上,嗅覚エンリッチメントという独創性と,
埼玉と長野という遠隔地同士の連携などが評価された受賞でした。


この賞のスタートは,川端裕人さんが言う所の「飼育担当者のふきこぼれた情熱」
をすくいとって光を当てるようなものだったそうですが,
今は,やはりいずれも他園や研究者,来園者といった外部との連携があってこそ
最適解を見付け出せる,解決策に到達できる高い次元の取り組みになっているということですね。

研究機関や行政,環境対策機関などとの連携や
来園者・市民との知識や意識の共有など
エンリッチメント大賞が目指す顕彰・啓蒙がさらに広がって深まっていくよう
応援していきたいと思います。


●市民zooネットワークHP
 http://zoo-net.org/

エンリッチメント大賞2019
 http://zoo-net.org/enrichment/award/2019/index.html

サポーター募集(年1口3000円)
 http://zoo-net.org/about/supporter.html

今回のイベントも20人以上の学生スタッフが参加していましたが
市民zooネットワークでの活動は動物園や水族館への就活にもけっこう生きるそう。
現場を知る人たちとの交流で厳しさを知った上で就職するので
あこがれの仕事と現実とのギャップに心折れてしまうような人は
まずいないとのこと。飼育スタッフに就職就業したい若者はぜひ
市民zooネットワークに参加してみてはいかがでしょうか。



  ニホンカモシカ: 行動と生態 (Natural History Series)
落合 啓二/東京大学出版会(2016/7)


 
    











posted by ドージマ・ダイスケ at 19:49| 東京 ☀| Comment(0) | このブログについて | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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