2017年09月19日

【本】『ただのオタクで売れない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。』について。

先日,江戸川区自然動物園に行ったのと同じ日,千葉県幕張で行われたイベントに行ったのですが,そこのMCというか企画主催をお笑い芸人の天津向さんが,ちょうどその日が著書の発売日ということで来場者全員に1冊ずつ進呈されたのがこの本。私も貰ったのですが事前にcakesでその一部が先行公開されていて面白かったので興味を持っていたのですが,『ただのオタクで売れない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。』というラノベにありがちな,内容そのままの長いタイトルの本,1冊まとめて読んでみると…

ただのオタクで売れてない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。
天津・向清太郎
小学館


これは,向さんに執筆オファーした小学館の編集者が彼に期待したものは,存分に込められているんだろうなと感じました。100点満点の読み応えだなと。


「エロ詩吟」で一世を風靡したお笑い芸人,天津・木村さんの漫才の相方,向清太郎さん。大ブレイクした木村さんでさえ売れなくなった「一発屋」として扱われているのに「じゃないほう芸人」の向さんが年収800万円以上稼いでいる(実際には871万円)。37歳で同年齢男性の平均年収が511万円という時世にどうやって6割以上増しの稼ぎを得ているのか,という本なのですが,芸歴10年で月収9万円という本当に売れない芸人だった状態から現在に至った経緯と,現在の年収の内訳とそれぞれの仕事を得るに至ったきっかけという縦横の視点から語られています。


漫才コンビの相方だけがピン芸で大ブレイクし
取り残された自分は社会的にも人格的にも最底辺に堕ちる
  ↓
先輩芸人たちや放送作家など周りの人たちの助言で
自分の強みやとるべき行動を見出していく
  ↓
具体的にどのような仕事をものにして
「871万円」まで積み上げてきたのか
収入の内訳



という構成になっていますけど,これって,仕事や人間関係で行き詰まっている人たちが現状打破するヒントを与えてくれる本であると同時に
お笑い芸能界やサブカルビジネス界といった異世界でスキルを磨いて能力(仕事)をGETし成長していくRPGラノベになっているんですよね。


そのラノベ主人公が異世界で戦っていく属性が「オタク趣味」という
多くの読者にとって身近で等身大の特性。


本の序盤では,コンビ結成から「エロ詩吟」ブームの渦中に向さんが暗黒面に堕ちていくまでの流れが臨場感たっぷりに描かれ,もう8年ほど前になる「エロ詩吟」ブームや漫才コンビ「天津」自体をよく知らない人にもよくわかる内容になっています。


暗黒面開示が潔い序盤

本業で伸び悩んでいる中,相方だけがピン芸で大ブレイクしてしまったことで一番の味方であるはずの相方を妬み恨み続けたという暗黒時代の醜い内面がめちゃめちゃリアルに開示されているところでまず引き込まれます。


朝の連ドラでもジャンプの王道漫画でも主人公の成長が大きなテーマになっている物語って,初期の主人公は常識知らずで無茶な言動をして周りに迷惑をかけたり騒動を巻き起こしたりすることが多々あるんですが,私,こういう展開で少なからずイラっときちゃうんですよ。
最近「悪気のないのが一番悪い」という言葉を図らずもしばしば見聞きするんですけど,自分が悪いと思っていないだけに解決後に結果オーライみたいな結末になると本当にわだかまりが残ってしまう。

しかし本書で向さんは自分の醜い思考をとことんさらけ出す。それは自分が悪かったことを客観的に振り返り,迷惑をかけた謝罪と,そんな自分を支え引き上げてくれた人々への感謝があってこそのことで,汚い言動を描くことが逆に浄化になっているんですよね。



人に助けられて好転する中盤

そして,彼が仕事をgetしていく過程が
引き上げてくれた先輩芸人や後輩芸人,構成作家さんたちとのエピソードとして描かれる。

明るい人気者から芸人になったわけではない,人付き合いが苦手でも面白いことを考えるのが好きで芸人になったハガキ職人タイプの芸人だと自称する向さんでも,道を開いてくれたのは人との縁であり,時として自分から飛び込んで人に会い人から助言や協力を得てきたことだと。

麒麟・川島さんや博多大吉さん,ブラマヨ吉田さんなどが投げかけた言葉が向さんの心に響き,そこに向さんの特性を見出して声をかけてくれる人が現れて行き詰まった現状が打破されていく…。相方の木村さんも,ところどころ転機になるところで向さんの悩みを払拭する一言をかけてくれる。
ドラマチックであり,また,読者の背中を押してくれる本書のキモの1つじゃないでしょうか。人に会おう,人と話そう,人に頼ってみよう と。

よくビジネス書で「交流会などに行って名刺をやりとりしても人脈はできない。自分の売りを明確にして人に役立つ存在になることが大事」などと語られますけど,その前に身近な人を頼ることからでも現状を打破する一歩が踏み出せることもあるんじゃないですかね。


「好き」が推進力となって突き進む後半

「4コマ漫画雑誌を毎月21誌購読している」4コマ漫画好きが,本人は普通のことなのに,一般の人からすると,その雑誌名を列挙するだけで面白い珍しい話であり,先輩芸人のトークイベントで大爆笑をもらい,自分がピンで4コマ漫画を紹介・解説するイベント開催につながり,『人志松本の〇〇な話』出演,大学での講演へとつながっていく…

・自分では当たり前だと思っているものが違う特性の他人から見ると突出した個性で強みであることがある。

・好きなものを「好き」と公言することで同じ特性の人や仕事とのつながりを得られることがある。


私も「好き」は人生における最重要ワードだと思っていて,
好きなものがあるだけで高揚感を抱けて元気になれますし
それを励みに頑張れたり,人とつながるきっかけになったり,
「好きこそものの上手なれ」で,人より秀でた知識やスキルを知らず知らずのうちに身に着けていたりするんですよね。

その好きなものについてわからない他人からでも
好きであることに対しては共感を得られたりするもんですよね。
私,朝日放送の『探偵ナイトスクープ』があそこまで人気が続く長寿番組になっている理由の1つが,依頼の多くが「好き」をきっかけに持ち込まれるからだと思っていて,見ていてかなり引いちゃうような変わり者の依頼者が少なくないんですけど,その「好き」に探偵とともにつきあっていくうちに視聴者も共鳴していく感じ。

ほんとうに人間として生を受けた者すべてについて,「好き」は幸せの総量を左右すると思っているのですが,それを体現する人がここにも1人いた,という本でもあります。


ビジネス本的な具体的TIPS

本の後半では,
・本のイベント,アニメ系のイベントMC
・漫画のコラム,原作
・パチンコ系の仕事
・4コマ書評
・ライトノベル執筆
・「蒙古タンメン中本」の仕事
etc
といった年収871万円を構成する仕事とその金額を

・自分の説明書をつくれ (肩書ではない自分の特徴を明確に)
・嫌われるのも個性
・仕事のない日をただの暇にするか仕事に生かすかは自分次第
・同じ事柄でも表現次第でインパクトが違う
・好きなら「にわか」でもよし
・満席にならなくても2年後までつながる内容・盛況が得られれば大成功

etc
といった,仕事を改善するために役立つ行動や心構えとともに紹介。

仕事に直結するものとして考えるとこのTIPS,
フリーの人や芸能の人だからこその話がほとんどなんですが,
「好きなら にわかでもよし」などはどんな人についてもけっこう大事な話じゃないですかね。「あ,俺,ありじゃん」て。好きな物のことで,同好の人に対して肩身が狭い,窮屈な思いをするなんておかしいですものね。


この章でひとつ気になったのは,ここでの収入の内訳の金額,
ちょっと調整していますよね。
ライトノベル4冊の印税が160万円って,だいぶ安いです。
4で割ったら私がブルーバックス1冊で講談社さんからもらった印税より大幅に安いです。その額から逆算した1冊あたりの売上を考えると,4巻が出るまで執筆依頼が続くのは厳しい気がします。
※1冊640円…印税10%として2万5千冊…日本で1年に出る本のうち5千冊売れないのはざら(というか大多数)ですから4巻合計としてもなくはない数字ですけど小学館のラノベ文庫だったら1冊目でこれに近い冊数いかないと続刊出ないんじゃないかなあ。

これはちょっと考えればわかりますけど,ここで紹介された収入は,複数年にわたってのものが多くて,しかも均等にあるわけじゃなくて仕事ごとに多い年少ない年がありますから,それを「年収」の内訳として数字にするには,仕事ごとに1年あたりの額を出して,合計したとき871万円になるよう,また1年あたりの額として自然な範囲で調整したでしょうね。

けれど仕事の実績としては「ライトノベルを4冊書いた」ことは示したいですし,「4冊書いて5年間で得た印税の1年分」みたいな説明をいちいちつけても読者には目障りなだけですから,「ライトノベルの印税4冊分 160万円」という,ちょっと気になる表現が出たのでしょうね。



■そしてこの本は,天津の現在について語り,結びとなります。

天津としてのコンビの活動のほかに互いに”自分勝手なやり方”で
好きなものを仕事にして生きていく。
先のことは一切わからないと言いながらも相方への感謝と
自分が歩んでいる道のりへの自信が伝わってきて爽やかに読み終えることができました。

とても読みやすい本で一気に読み終えられます。
献本された本をおすすめするのがステマになるのかどうかわかりませんが,
この本,ありだと思います。

ただのオタクで売れてない芸人で借金300万円あったボクが、年収800万円になった件について。
天津・向清太郎
小学館


芸人ディスティネーション (ガガガ文庫)
天津 向
小学館
posted by ドージマ・ダイスケ at 00:21| 東京 ☀| Comment(0) | 【おすすめ本】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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