2014年03月22日

【おすすめ本】 人類の勢力図を決めたのは「食糧・人口・伝播」−J・ダイヤモンド著 『銃・病原菌・鉄』

もう何ヶ月十何ヶ月と紹介したいと思いつつ紹介してない本が何冊もたまっているたまってる。
1冊1冊紹介していかないといかんですね。


本銃・病原菌・鉄〈上巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎
ジャレド・ダイアモンド (著), 倉骨 彰 (翻訳)/草思社

本銃・病原菌・鉄〈下巻〉―1万3000年にわたる人類史の謎/草思社
こちら,原著は1997年,日本語版も2000年発行の本。
ピュリッツァー賞受賞作で,朝日新聞「ゼロ年代の50冊」2000年〜2009年に刊行された全ての本の第1位に選定されたという名著−
に も か か わ ら ず,今頃になって初めて読んだ私。
このくらいの歳になると5年10年あっという間ですけど,発刊時に生まれた子が義務教育終盤になろうって頃にって,遅すぎてお恥ずかしいですわね。が,逆に,最近の本ではないので知らないという人に,今からでもおすすめする価値はあると思い紹介する次第であります。

現在,欧米を中心とする地域で文化・経済が発展し,富が集中する格差が生じているのはなぜか,近年に至るまでおもな文明がユーラシア大陸で興り,これらの地域の国が新大陸に進出して先住民を征服してきたのはなぜか,逆のことがなぜ起こらなかったのか,といった謎を探究する,アメリカ人進化生物学者,ジャレド・ダイアモンド博士が地理的・歴史的・言語学的・生物学的知見をまとめ上げて,連なる謎に次々と目からウロコの解を示してくれる,読み応え満点の上下巻2冊であります。

欧米先進国から熱帯の密林で今も狩猟採集生活をしている人々まで,同じ人類が世界の各地で異なる進歩・発展をしてきたのはなぜか。白人の知能や性格,身体能力が優れているからではなく,あくまでこれは現時点での勢力図であって,ごく最近まで西欧地域が世界の文明に貢献した点は皆無だった。アフリカに起源を持つ人類が地中海沿岸やアジア,そして北米・南米や太平洋地域に広がっていき,数々の民族間の争いを経ていく中で,その勝敗を決めた要因は何かについて探っていく。
狩猟採集民族と農耕民族が武力対決すれば,大抵の場合,勝つのは農耕民族である。
他の集団と戦って勝つ力,高度な武器を持つには自給自足を離れた職業を営む分業制が必要,それが可能になるためには人口を支える食料生産が必要である。
世界で他に先駆けて古代文明がメソポタミアの「肥沃な三日月地帯」や黄河流域で発展したのはなぜか。
それは,作物化できる植物や家畜化できる動物に恵まれた環境だったからである。

生物関連のブログとしては,作物化できる植物の条件や家畜化できる野生動物の条件をあげ,それを満たす理想的な野生の動植物は非常に限定される種類しかないという指摘が非常に興味深かった点を紹介しておきたいです。オーストラリアや北米・南米は,人類が進出してきた頃になぜか大型哺乳類がほとんど絶滅してしまった。アフリカ大陸は野生動物の宝庫であるが,どれもこれも家畜化可能な条件(人の管理下で繁殖でき,低コストで短期間のうちに大きく成長する)を満たさない−。

書名の『銃・病原菌・鉄』は,本全体というよりプロローグから第4部まであるうちのおもに第1部の内容を代表するタイトルで,16世紀にピサロ率いるスペイン部隊のインカ皇帝攻略に代表されるようにヨーロッパ人がなぜ他の大陸を征服できたのかについて示しているのですが,そのうち「病原菌」は,人類の歴史の中で繰り広げられてきた数々の征服戦争において,征服されたり滅亡した集団のほとんどの死者は戦争そのものではなく彼らが持ち込んだ病原菌に免疫がないために死んだという事実を示しています。アフリカのマラリアみたいなごく一部の例を除けば,ヨーロッパ人が他大陸の先住民に致命的な伝染病を移したケースが圧倒的。これもユーラシアではウシなど何種類もの家畜を保持してきたためと説明します。インフルエンザや日本脳炎の病原体がブタを経てヒトに感染するようになったことはよく知られていますが,多くの伝染病は動物由来で生まれ,それら数々の伝染病に古くから襲われ,免疫をもつ人間が生き残るプロセスを繰り返してきたヨーロッパ人に対し,南北合わせてアルパカ/リャマくらいしか家畜を得られなかったアメリカ大陸の人々,その違いというわけです。

ここまでの話は上巻で説明されていて,下巻はそれまでの内容と重なる部分がけっこうあるのでこれから読む人は上巻だけでも6〜7割はカバーできるように思います。しかし下巻には世界の言語の約半分が分布しているという東アジア・太平洋における人類の伝播の考察と,ヒトの主要な6つの人種のうち5つ(うち3つが固有)が暮らしているアフリカ大陸についての考察などがあって,これらも興味深いですね。

また,人間は,優れた発明があっても,必要とせずに捨ててしまうことが多いという歴史的事実をいくつも示していて,コロンブスが新大陸発見の航海に出られたのは欧州がいくつもの国に分かれていたから(彼を支援したスペインのイザベラ女王は彼が支援を求めて回った5つめの国の君主),中国が数々の世界初の重要な発明を生みながら先進国の地位を維持できなかったのは古くから広大な地域が1人の皇帝に支配される統一国家になっていたから(時計や造船の技術が断絶,近年も文化大革命で教育機関が5年間完全停止)という指摘は非常に興味深いです。今の日本も,国を動かす政財界の中枢が原発に頼り続けようとして新エネルギーの実用化が遅々として進まないですし…

とにかくなんともまあこんなに地球全域について,各地域へこんな(欧米中心でない)配分で多角的な切り口で深い考察をまとめられるものです。ダイヤモンド博士は現代の巨人というにふさわしい人物だなぁ…。まさにこれは1つの教科書,特に若い人には1年かけて読み込む,またはこれを教材に1コマ授業をするくらいの価値はあるのではないかと思います。


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posted by ドージマ・ダイスケ at 23:17| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【おすすめ本】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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