2013年10月18日

異色のエンターテインメントスズメバチ小説『風の中のマリア』

今年は10月になっても暑いくらいの陽気が残っていますね。
10月3日は関東,朝から気温が高かったですけど,私が出勤する道の途中,
公園でかなりたくさんのツクツクボウシが鳴いていました。
さすがに翌日以降は聞きませんでしたけど,その後も台風が近づいては
記録的な暖かさが各地で観測されるというこの秋の傾向が繰り返されましたね。
台風27号も先日伊豆大島に大きな被害と各地交通に大きな影響を与えた26号の
ルートとほぼ同じ経路をたどるのではと聞きますがどうなるのか…

さて本当に更新が空いてしまっている当ブログですが,
本の感想をupしたいと思います。
百田尚樹氏といえば今わが国の出版界有数の人気作家で
映画化もされるデビュー作『永遠の0』や本屋大賞受賞『海賊と呼ばれた男』が
特によく知られていますが,数々のヒット作ぞろいの作品群のなかから
まず最初に読もうと決めていたのがこちら,
『風の中のマリア』です。


風の中のマリア (講談社文庫)
百田尚樹/講談社

この小説の主人公,マリアはハチのワーカー。
それもマーヤやハッチなどの児童文学作品やアニメでおなじみのミツバチではなく,スズメバチ亜科最大のスズメバチ,学名Vespa mandarinia(ヴェスパ・マンダリニア)ことオオスズメバチの戦士です。

◆マリアは「偉大なる母」こと女王バチのアストリッドを頂点とする巣における凄腕のハンターの1匹。妹である幼虫たちを養うため毎日狩りに出かけ草原や林で昆虫やクモなどを捕らえては肉団子にする。

キルステン,ドロテア,エルザ,ロッテ,アンネ=ゾフィーといった名の
姉妹たちとともに圧倒的な戦闘力でバッタやコガネムシ,コガタスズメバチなどの
虫たちを次々と屠っていくその様は,『クレイモア』などの世界観を彷彿とさせますが
現実のスズメバチやその狩りの対象となる昆虫や他種のハチたちの
生態に則して描かれているので非常にリアル。
毎日数々の獲物を肉団子にしながら自身のくびれた体は肉を食べることが
できず,幼虫の出す汁を飲むことで約30日の成虫の期間戦い続ける生理,
最強のハンターでも狩るのが困難な強敵の存在,
毎日必ず帰還できない個体がいる外界の厳しさ
寄生虫や巣を襲う動物の脅威,
おなじみ”蜂球”で最強のスズメバチさえ殺すことができるニホンミツバチと
外来種のためスズメバチには全くかなわないが逆にニホンミツバチには
全く抵抗されずに略奪行為を働けるセイヨウミツバチとの三角関係。

女王アストリッドの巣立ちから始まり,(オスバチたちと)次世代女王の旅立ちで終わる
女王の一生と運命が直結している彼女らの”帝国”である巣の繁栄や衰退。
季節の移り変わりとともに狩りの対象が変わり,秋が深まり
巣が巨大なものとなる一方で獲物がどんどん減っていく状況の中,
戦力の損失覚悟でキイロスズメバチの巣襲撃に踏み切るくだりなど
約半年ほどの間の物語の中で劇的な出来事がいくつもいくつもあって
文庫本約300ページがあっという間でした。

◆そんな虫たちの世界が主人公の目線で語られるこの小説,
つまり彼女らはすべて擬人化されていて
マリアたちワーカーは,雌でありながら子を産むことなく
毎日命をかけてひたすら妹である幼虫たちを養い続ける生き方を
誇りを持って受け入れたり疑問をもったりという自分の思いを語り,
まさに女王というか教祖様のようにふるまう「偉大なる母」アストリッドを
崇拝するかのように絶対的に服従しながら生きていきます。
獲物となる虫たちは,ある者は命乞いをし,ある者は勇敢に反撃。
また,ミドリシジミやゴミグモ,ミノガ,クロヤマアリにカメムシといった
他の虫たちが自分たちの生態と対比しながらハチの一生について
解説してくれる。
迫力満点である一方,そんなわけないよと鼻白む向きもあるかもしれないな
と思いながら読んでいたわけですが,文庫版巻末の解説で養老孟司先生が
ハチに意識があるかないかを確かめる科学的方法はない,
よってハチに意識があるかのように書かれているこの作品を
間違いだとする科学的根拠も存在しないと書かれていて,なるほどなと思いました。

◆で,生物(学)のことをテーマにブログや漫画を描いている私としては
生き物を主人公にしたお話もつくれたらいいなと思ったりもするわけですよ。
で,この『風の中のマリア』のような,スズメバチの一生を題材にした
興味深い彼女らの生態,知識満載の物語をつくることを考えると
小説というのはまさに最適の形式だな
と思いました。
漫画や映像化するにはマリアたちを視覚的にどう描くかがすごいネックになるので。

せいぜい舞台ならなんとかなるか…ライオンキングやリトルマーメイドみたいな成功例もありますしね。
女性の世界だから宝塚とか…?殺戮者が主人公ですから現実味は低いですけど
いちおう恋愛要素も含まれてますしね(ただ男役の出番が異様に少ない(;^_^)。
男役の女優さんがマリアたちワーカーを演じるか…そうしたら娘役のキャストがゼロになる(;;;^_^))

漫画で描くとなるとリアルな絵柄で昆虫たちを描くしかないでしょうねぇ…
『害虫女子コスモポリタン』みたいな擬人化漫画とか『テラフォーマーズ』みたいな
半動物半人間のバトル作品もあるのでプロの手にかかるとなんとかなるのかなぁ…
アニメで描くとなると,通常は人間のような姿で戦闘シーンになるとリアルな
スズメバチの姿に変身(心の姿として人間バージョンの顔も巨大ロボットアニメの
操縦者のように出したり)するとか…

◆非常に獰猛で大顎と毒針を武器とした攻撃力も強く,
おそらく日本では人間以外で年間最も多くの人を殺傷している動物で
(ヘビやクマに襲われて亡くなる人は実際にはあまりいませんから)
それだけに好きよりは嫌いという人が多いであろうスズメバチを描いた物語。
現代の人間の価値基準から考えて彼女らに共感するまでは難しいかもしれませんが
日本の国土で脈々と受け継がれてきた生態系のバランス,そのつながりの
一部としてオオスズメバチも役割を担い,懸命に生きて命をつないでいるということを
この本から少しでも読み取れたらと思う次第であります。


ハウリンウルフ「スズメバチ問題を考える」(2013年09月20日)
http://mikihito.hamazo.tv/e4801021.html

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131018 中国スズメバチツイート.jpg
posted by ドージマ・ダイスケ at 07:22| 東京 ☁| Comment(0) | TrackBack(0) | 【おすすめ本】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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