2007年03月31日

Z会「参考書の参考書」を斬る(2) 数研出版『フォトサイエンス生物図録』

木原アイコン

高校レベルの生物,生物の勉強を語るにあたって
絶対外せない本のジャンルが図録もの(図説,資料集)。

フルカラーで200ページ以上の大判,
膨大といってもいいくらい豊富な写真・グラフ・解説図が掲載されていて
1000円を切るというとんでもない価格設定!
これが専門書や実用書のジャンルなら3000円してもおかしくないし
そのへんの雑学本に書いてあるようなことを寄せ集めた程度の
ぺらっぺら2色の解説本が平気で1000円超えていることを考えると
おそろしくお得な商品があることを知らないのはすごく損!

Z会の2007年版「参考書の参考書」では
数研出版『フォトサイエンス生物図録』(以下『フォトサイエンス』)が
推薦されているが,他にも負けず劣らずの図説・資料集が出ているので
比較紹介してみたい。



    
視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録

数研出版編集部, 鈴木 孝仁
数研出版 232p 890円
視覚でとらえるフォトサイエンス生物図録 改訂版 248頁 924円
    
ダイナミックワイド図説生物 総合版

石川 統
東京書籍 264p 880円

まずは,『フォトサイエンス』についての
「参考書の参考書」の紹介文。
 図説は,現象の理解に役立ち重宝する。
この図説は,写真や図が大きくカラフルで見やすい。

そりゃ図説はカラフルだろ。

ビジュアル面
では写真や図が大きく見やすいのはこの図録だけなのかというと
さにあらず。『フォトサイエンス』はむしろ
「コンパクトで見やすい」といってもいい図録なのだ。

というのも,東京書籍『ダイナミックワイド図説生物』
(以下『ダイナミックワイド』)がその名の通り
ダイナミックでワイドな図や写真の配置をしているのだ。
これと比べると『フォトサイエンス』はページ数が少ないため
全体として内容が少ないかコンパクトな配置をせざるを得ない
ということになる。

※骨格筋収縮に関するページ。(クリックで拡大)
東書図録 筋肉1ダイナミックワイド(生物I分野ページ)
東書図録 筋肉2ダイナミックワイド(生物II分野ページ)

数研図録 筋肉フォトサイエンス

透視図などいかにもCG的立体的な図あり,
写真との組み合わせありといかにもお金をかけていそうな
図の作り方,見開き全体を意識した大胆なレイアウトと
雑誌的な雰囲気も感じられるビジュアル構成の
『ダイナミックワイド』。
見栄えの立派な,手の込んだ図版がわかりやすいかというと
これは個々の図版の構成や読者との相性も影響するので
一概には言えないが,一般の人が買って眺めて楽しめる本,
どちらがお得に感じかというとやはり『ダイナミックワイド』の方かな。

ただ,見開きごとの色合いを見ると,
『ダイナミックワイド』はやや白っぽくて冷たい感じがして,
『フォトサイエンス』のほうが暖かく落ち着いた感じがする。
これは背景に色を使う,それも薄茶色や黄土色など
彩度を落とした(わざとくすんだ色にした)暖色系の色を用意し
うまく使っているから。

図の中で使う線や塗りつぶし,矢印などの色も実は違う。
カラー印刷は赤(マゼンタ),青(シアン),黄,黒の4色の組み合わせ
なので,水色なら青20%,黄緑なら青10%+黄20%,
太い赤矢印を赤100%にするときつい色になるから80%にする
などといった考え方で色が使われていることが多いのだが
『フォトサイエンス』は最初に使用色(高彩度の色のほか
くすんだ赤・青・茶色・緑など)のスウォッチを用意して,
そこから色を選んで使っているな。
これをすると,落ち着きがありかつ統一感のある色調を保てるのだ。

改訂戦争
数研出版は旧課程(生物IB,II)の時期には図録の空白期があり
2000年の『フォトサイエンス』発行の際には後発に位置していたのだが
まだB5版が多かった当時,横幅が大きいAB版で出したことや
すっきりと見やすい構成になっていたことなどからたちまちシェアを獲得。
学習指導要領が新課程(生物I,II)に切り替わる2003年に
新課程版に改訂,そして今年2007年にも改訂を行った。

東京書籍は『図説生物』があって,97年から『ビジュアルワイド図説生物』を
発行,ほぼ毎年のペースで“改訂版”を発行し,学習指導要領が
新課程に切り替わる2003年に現在の『ダイナミックワイド』(212頁)を投入。
これは生物IIの「生物の多様性(進化・分類)」と「生物の集団」を含まない版で
翌2004年にこれらも含んだ「総合版」を発行,
こちらに切り替えていく形で,現在では「総合版」だけが販売されている。

図説というのは,膨大な数の写真を使うだけに,その使用料だけで
1〜2千万円はかかる,非常に元手のいる商品だ。
1冊の値段のうち書店と問屋のマージンを引いた出版社の取り分は約7割,
カラーで丈夫な製本をしないといけないから印刷・製本代もかさみ
単価の3〜4割は飛ぶので,5万冊売れても写真代にもならない…という世界。
有名作家の小説やコミックのように何十万部と売れる本は一握り,
1万冊売るというのは非常に厳しい業界だと聞く。
学習指導要領が切り替わる2003年に改訂をするのは
当然として,なぜ数研出版は4年間で改訂してきたのか,
また,東京書籍はビジュアルワイド時代頻繁に改訂していたのか?

それは学校採用ということに理由がある。
生物を履修する学校・クラスで図説を採用購入する率は高く,
しかもほとんどが履修者全員採用となるから
市場規模は30万冊程度あるそうだ。
と,いうことは,ここで勝ち組にさえなれればガバッと10万冊,
売上げ8千万円という規模の商売が毎年続くってことだよな。

その採用を決めるのが,私たち学校の教師。
各出版社は学校の教務に見本を送ってきたり
営業マンが職員室に直接宣伝しに来たりするわけだけれど,
毎年同じ見本を持ってこられても飽きるんだよな。
そういうわけで学校採用の資料集や問題集なんかは
最新の話題や情報,入試問題を盛り込んでいるとアピールするため
改訂頻度を競う面もある。
2007年というのは教科書が各社改訂版を出してくる年なので
それに合わせて図説も改訂するというタイミングってことだよな。

その改訂内容だけれど,さすがに内容を入れ替えたり
書き換えたりなどの大幅な変更は行われていない。
ページ中の項目番号(記号)などの色遣いを淡くして
あか抜けた,図や写真などの学習内容が際だって見えるデザインに
マイナーチェンジしたこと,大部分の教科書の配列に合わせて
「生物の集団」と「進化・系統分類」の順番を入れ替えたこと,
新しく各ページの下に重要語の英訳を載せたことなどが主な変更点。
そして,『フォトサイエンス』の特色の1つでもある
その道の専門家が執筆する見開き2頁の「特集」。
なかなか面白いのだが
(1) ES細胞と再生医療
(2) 遺伝子組換え食品
(3) 環境ホルモン
(4) 熱帯雨林の林冠から
(5) ヒトゲノム解読競争
(1) ES細胞と臓器幹細胞
(2) ゲノム創薬
(3) 脳と心のかかわり
(4) 私たちの生活とアレルギー
(5) 外来生物の影響
(6) 大きく変貌する日本の自然

と,大幅入れ替え。生徒としては改訂前の特集も興味深く,
差し替えがもったいない感もするだろうけど,先生にとっては
新しい話題が入っているのは嬉しいことなんだな。
入れ替えになった旧特集の内容は通常の学習内容として
盛り込んだりするけど,初版の『フォトサイエンス』にあった
特集の1つ「干潟を守る意味」なんかは消滅してしまって
ちょっと残念。諫早湾の干拓問題からももう10年経っちまったし
世間的にはあまり大きな話題になってないけどな…。

東京書籍の方は『ダイナミックワイド』になって改訂していないが
必要ないといえば必要ないか。
『フォトサイエンス』に追撃されて抜本的に変えないといけないと
『ビジュアルワイド』を改訂するのではなく
根本的に変えて,一から『ダイナミックワイド』を出してきたように
変えるときはバッサリ変える,教科書ですら改訂時期に
前の本を廃して新しい本を1冊出してくるような会社なので
その思い切りのよさ,それを可能にする資金力が紙面からも伺えると
思いながら見てみるのも一興かもしれないぞ。

もう1点
そこへ昨年割って入ってきたのが実教出版『増補新訂版 サイエンスビュー 生物総合資料』(長野 敬, 牛木 辰男→Amazon)。『フォトサイエンス』よりも『ダイナミックワイド』よりも多い280ページでお値段税込820円!
デザイン的にはよくも悪くも,というよりいい意味で昔ながらの参考書の色遣いでそれほどあか抜けないけれど,決して古くなく安心して見られる感じ。それぞれの図版も見やすいし,執筆者(監修者の2人の先生とは別に,各ページの中身を書いた人。たぶん高校の先生方が分担して書いたと思う)の工夫が感じられてくる。冒頭の「重要生物99」とか,決して斬新な企画というわけじゃないんだけど,楽しませよう,生物の勉強に興味を持たせようという熱意を感じるわ。現状で理科のシェアではかなり苦戦しているけれど,教科書を見ても新しいことを取り入れよう,工夫してみようという著者の心意気みたいなものが伝わってくるんで,ちょっと応援していたりする(心の中で)。
この図録,よほど大きな本屋でないと置いてないと思うけど,もし見かけることがあったらパラパラと中身を見てやってほしいな。


で…結論としては
「読み比べて好みで選んでくれ」に尽きるのだが
3点とも扱っている本屋は限られるだろうからな…。

『ダイナミックワイド』は32頁の問題集小冊子が挟み込まれていたり
内容的にも大学の授業で使われるくらい突っ込んだ内容が扱われているので
高校生が買ってつぶしが効く,お得感からいえばこちらがお薦め。

『フォトサイエンス』については,レイアウトの見やすさや
見た目あっさりしている分,個々の内容(図や記述)が読み取りやすく
まとめられている点に注目してほしいというところか。

図録1コマ
『サイエンスビュー』は…いいよ。ウン。
ドドンと重いし(図録はどれも重い),ババンと図や写真がてんこ盛りだし(写真1550点、カラーイラスト1260点とのこと。これだけで3千万円じゃきかないぞきっと…)生物を勉強してない人が読んでみるにはとっつきやすいページの多い,すっごいお得な本ではないかと思う。



※類書(学校採用)
第一学習社『スクエア最新図説生物』
監修 吉里勝利 AB判 256頁 (カラー240頁,2色16頁)
定価820円(本体781円) (2005/03)

浜島書店『増補 ニューステージ新訂生物図表』
AB判 カラーページ数 272頁 →Amazon
定価(税込) 860円 (→見本ページ

「参考書の参考書」掲載教材(高校コース高校基礎科)

理解しやすい生物I―新課程版
  〔文英堂〕 1785円 (本体\1700)→Amazon
改訂版 視覚でとらえるフォトサイエンス 生物図録
  〔数研出版〕 924円 (本体\880)→Amazon
  ※07年2月改訂版発行。→Amazon
はじめる生物50テーマ 〔Z会出版〕 1,050円 (本体\1,000)
大学入試にでる 生物[遺伝]が面白いほどわかる本 新出題傾向対応版
  〔中経出版〕 1,260円 (本体\1,200) →Amazon
新課程 トライアル 生物I <教科傍用>
  〔数研出版〕 660円 (本体\629) →Amazon
  ※07年3月改訂版が出ています(680円税込)→Amazon
解説が詳しい 生物I 頻出重要問題集 大町 尚史
  〔旺文社〕 840円 (本体\800) →Amazon
サブノート 生物I 〔旺文社〕 935円 (本体\890) →Amazon


数研出版(東京・京都) http://www.suken.co.jp/
東京書籍(東京) http://www.tokyo-shoseki.co.jp/
実教出版(東京) http://www.jikkyo.co.jp/index.jsp
第一学習社(広島) http://www.daiichi-g.co.jp/top1.html
浜島書店(名古屋) http://www.hamajima.co.jp/

バッド(下向き矢印)少しでも参考になったと思っていただけましたら
 クリックしていただけるととても嬉しいです。
 よろしくお願い申し上げます。<(_ _)>
にほんブログ村 漫画ブログ オリジナル漫画へ人気ブログランキングバナーくつろぐバナー
posted by ドージマ・ダイスケ at 13:22| 東京 ☀| Comment(0) | TrackBack(0) | 【参考書・問題集】 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス:

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]


この記事へのトラックバック
記事検索
 

ケイン 基礎生物学
東京化学同人