2008年06月10日

興奮!シンポジウム「宇宙と深海の生化学」

生物五輪IBO2009_banner
「生物チャレンジ」(兼国際生物学オリンピック国内予選)は
ついに応募締め切り直前6月10日(火)!
第一次試験開催日は7月20日(日)

080607 生化学会関東シンポ
国際生物オリンピックの説明をする毛利秀雄先生
それではさっそく,先日当ブログでも紹介しました関連イベント,
6月7日(土)に横浜市教育文化センター 2階ホールで行われました
日本生化学界関東支部会教育シンポジウム 
宇宙と深海の生化学
地上にだけ生命がいるのではない

の講演内容をupいたします。


時間もまとめる能力もございませんので
かいつまんだメモ書き程度のものになりますが
至らぬ所はご了承のほど。
雰囲気程度でも伝われば…と思います。

「深海の生物学」
堀越弘毅(海洋研究開発機構)

・海は地球表面の4分の3を占め,しかもその大部分は深海である。
 5000m以上の深海になれば水圧は500気圧以上,水温は低いところで−4〜2℃,熱水噴出孔など高いところでは100℃を超える。こういった世界がむしろ地球の大部分であって,われわれの知っている陸地や浅い海はほんの一部でしかない。

◆潜水調査船による調査・研究の成果
・しんかい6500やかいこう(11000mまで潜水可能)の話。
 「有人で8時間潜るがトイレなし」など
・シンカイコシオリエビ…ゆでてもいないのに赤い。
 硫化水素臭くて食べるのは無理。
 この深さの厳しい条件下で動物がすんでいるというのは
 すごい発見だったのに,潜ったクルーは「エビがいます」と
 いうだけで,あわや採集せずに帰還するところだった。 
・深海の泥には貝殻は残らない。高水圧の下では溶けてしまう。
 泥の中にすんでいる細菌の99.9%は今の技術では培養できず,
 その原因・解決法は10年かけても全然わからなかったが
 突然,トリプトファンの取り込みに障害が生じるためだとわかった。
・高活性セルラーゼ生産菌が発見された。
 ふつうは分解できない生のセルロースも分解できる。
・高圧を保てるチタン製の球を深海に沈めて,深海魚を採集,
 コンゴウアナゴの飼育に成功。
・「掘削船ちきゅう」…戦艦大和なみにでかい。
 当然燃料代がやたらかかるのだが,昔の安い相場で計算した
 予算しかおりないので全然使えていない。
 アメリカなどがタダで使おうと狙っているが,なんとか
 うまく活用したい。

◆創造的な研究と固定概念
・細菌の大きさはふつう1μmくらいなのだが,
 深海の泥の中には100nmくらいのが見つかる。
 『Nature』や『Science』に投稿すると,審査する大御所科学者が
 「そんなもの存在するわけがない」と思うのかたいていはねられる。
・利根川進「創造性のある研究をするためには
  創造性のある人,あった人の研究を
  徹底的にまねしてみること」
 パスツール「科学の発展を阻害するものは
  “かくあらねばならない”という思いこみだ」。
・深海という未知の世界を研究する上では,DNAで支配されない,
 タンパク質のみの生物などが存在する可能性すら否定すべきではない。

◆深海の生態系と時間
・深海の生物にとっての時間というのは大きなテーマの1つである。
 「生物にとって時間とは?」
 「物理学的時間との違いは?一定?」
 「地上と深海は同じか?(深海には光がない)」


「宇宙でヒトが暮らすために
 〜これまで有人宇宙技術に携わって学んだこと〜」

 千葉丈久(宇宙航空研究開発機構)

 ※当初予定されていた山方健士氏は星出さんのフライトの
  サポートのためヒューストンへ出張中。


◆宇宙飛行士の生活場所
・高度…約400km
・温度は日の当たるところが120℃,日陰がー150℃。
・秒速約8kmで地球の周りを旋回,約90分で1周。
・滞在は2週間〜6ヶ月。

◆国際宇宙ステーション
・日米ロ英仏独伊ブラジル加スイススペイン…など16か国が参加。
・完成時の大きさはサッカー場より少し大きいくらい。
・「きぼう」は前回の土井さん+今回の星出さん+次の1回の作業で完成。
・今回の星出さんは15日間のフライト,来年の若田さんは
 約3か月の予定。

◆宇宙飛行士の生活
・中では特殊な衣服は必要ない。打ち上げと帰還のときは
 あのオレンジ色の耐火性をもった通称“パンプキンスーツ”を
 着る。船外活動のときは当然宇宙服。
・スペースシャトル内では2段ベッド。宇宙ステーションでは
 狭いけれどいちおう個室的環境が用意されている。
・トイレはとても使いづらく,1度しくじればとんでもない
 ことになるので事前に入念な訓練が積み重ねられる。

・酸素はどうやって確保されているの?
 水を分解して酸素を作っている。同時に,人間が排出した
 二酸化炭素を吸収するしくみもある。



「宇宙と生命化学」
浅島誠(東京大学大学院)


◆国際宇宙ステーションの研究施設
・「きぼう」の正式名称はJEM=Japanese Experimental Module
・CBEF…細胞培養装置
 微少重力実験用トレイと荷重力実験用回転テーブル
 この両方が揃うことで,重力以外の条件を揃えた対照実験が
 可能になる。
・これまでは宇宙実験をして,地上に帰ってきた後分析して
 色々なことがわかったのが,これからは実験と同時に
 リアルタイムでわかるようになる。
 それも,つくばのコールセンターが拠点になる。 

◆宇宙実験の例
 生命は地球表層の環境に適応してロバストな(適応能力を備えた)
 システムである生命のしくみをつくりあげてきた。
・植物の成長について…東北大・高橋研究室
・動物の発生…東京大・浅島研究室
・筋肉の萎縮…徳島大・二川研究室
・骨への影響…東京医歯大・野田研究室

植物の成長
 キュウリのペグ形成…種皮を押さえながら胚軸を
 成長させて種皮から抜け出す役割を持つ。
・発芽後に横になった根と胚軸の境界域の下側にできる。
・上側のペグ形成が重力によってネガティブに制御されている
 内皮細胞が重力感受し,上側でオーキシンのレベルが減少。
・「クリノスタット」による疑似微少重力実験
 正常環境では水平に伸びる側根がまちまちの方向に伸びる。

動物の発生
・両生類の腎臓形成…ツメガエルA6細胞のドーム形成研究
 対照実験としてA8細胞(肝臓由来)の増殖と併せて観察する。
・通常と微少重力状態とで変化(増加・減少)する遺伝子
 グリシンC クリエイティブキナーゼ …増加
 NDRG1(前腎管形成)…減少
ツメガエルの初期発生
 微少重力下では第3卵割が赤道面で起こる等割になり,
 胞胚腔は動物極寄りではなく胚の中央にできる。
 そして,原口は「やや植物極寄り」ではなくずっと植物極側
 にできる。しかし,その後オタマジャクシに発生した
 時点では外見上全く正常に成長している。


筋肉の萎縮
・無重力による筋萎縮にはユビキチン・プレテアソーム蛋白分解経路が重要
・微少重力下で影響を受ける遺伝子の1つCbl−b(シーブル・ビー)
 Cbl−bノックアウト個体とも比較して実験
・IGF−1抵抗性 IRS−1分解
 →タンパク質合成より分解が優勢になり筋肉が減少する。
・筋萎縮を引き起こすユビキチンリガーゼの阻害によって
 老人などの寝たきり予防法が見つかる可能性。


骨への影響
・細胞外基質分子OPN(オステオポンチン)が重力感受に必要
・マウスの尾を上から吊り上げて後肢が下につかないようにする
 「尾部懸垂」実験をすると微少重力下と同様に骨量が減少する。
 これがOPNノックアウト個体だと,骨量が減少しない。
※「重力を感知して骨量を増やす遺伝子がはたらかなくて無重力だと
 骨量が減る」ではなくて「無重力を感知して骨量を減らす
 遺伝子がはたらく」なんですね。少し不思議な気がします。

・転写・細胞接着斑シャトル蛋白でありBMP(骨形成因子)
 アンタゴニスト(拮抗物質,阻害剤)のCIZ(シズ)が
 重力感受に必要である。
・交感神経ブロッカーPropranololは尾部懸垂による骨量減少を
 抑制する。交感神経は骨吸収(促進)と骨形成(抑制)の両面で機能する。
※「寝る子は育つ」,成長ホルモンは寝ている間によく分泌される
 といいますが,起きている間にはたらく交感神経が逆のはたらきを
 していることも関係しているかもしれませんね。


宇宙実験に臨む研究現場,準備も大変
・遺伝子発現を網羅的に解析する「DNAマイクロアレイ」
 宇宙実験の計画,実現まで幾度の延期を含め14年かかったが
 その間にも絶えず改良進歩を重ね,装置の重さは23分の1,
 精度は100倍になった。間もなく精度が1000倍のものができる。
・一発勝負の実験…失敗できない緊張と重圧
 担当クルーに前もって実験の意味と具体的操作手順を
 マスターしてもらう
・打ち上げが予定通りに行われること自体めったにない。
 1日でもずれれば実験材料は使い物にならないので
 どんなケースになっても対応できるように実験材料の
 バックアップを万全にしておかなければならない。

生命にとっての宇宙
・宇宙環境は,生命のしくみと進化の謎を解くカギ
 →多様性・複雑性・恒常性・ロバスト性などの
  しくみを理解することができる
・将来の宇宙探査につながる知見を得ることができる
・生命環境維持や食料生産への知見を得ることにつながる

日本の宇宙実験・研究
・植物分野…スペースシャトルでの実績で世界をリード。
・動物発生…メダカの発生研究は宇宙環境で世代交代に
 成功した脊椎動物唯一の例。日本原産で全ゲノム解読が
 済んでいる理想的な実験材料。
・放射線影響分野…日本は研究者層が厚く有望。

宇宙での研究の意義
・地上での生命科学への貢献
・地上での医療技術への貢献
・地上での食糧問題への貢献


※個々の微少重力の影響事例の解説は
 遺伝子の形質発現のしくみに関する図解が主で
 高校生物なら「生物II」の形質発現の範囲を一通り
 マスターしてないと理解するのはちょっときついレベルの講演でしたが
 宇宙実験には地上での学問や技術に直結する意義があること
 それの実現に情熱を傾ける研究者の皆さんの熱さが伝わってくる
 浅島先生の講演でした。

 計画のはじまりからスペースシャトル事故などによる
 延期などがあり十数年を費やしてようやく今に至った,
 これまでの宇宙実験は一発勝負で絶対に失敗できないために
 入念に万難を排する準備をしたきたくだりは
 シビアな条件で仕事をする緊張感がエキサイティングでしたし
 計画に希望をもちながらも間に合わずに退官していった人たちの分も
 頑張らなければならないという使命や決意についても
 こういった最前線の研究者の皆さんの熱意や夢がもっと
 広く知られたら(まさに『プロジェクトX』の世界ですね)
 科学への理解が広まるし,研究者を志す若者も増えるんじゃないかなと
 思いました。



最後は,国際生物オリンピック日本委員会の委員長である
毛利英雄先生から「国際生物オリンピックについて」紹介。
先生の経歴,鞭毛などの運動にかかわる微小管タンパク
チューブリンの発見にまつわるお話もありました。


以上,メモというか走り書きのような要約でしたが
少しでもシンポジウムの様子・内容が伝われば幸いです。
個々の具体的内容について誤りも多々あるかもしれませんが
概要がつかめる程度にお考えいただいてお読みいただければと思います。

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「宇宙医学」入門―宇宙空間でヒトの体はどう変わるか
宇宙航空研究開発機構
マキノ出版 (2005/08) 155ページ

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宇宙ステーションにかけた夢―日本初の有人宇宙実験室「きぼう」ができるまで (くもんジュニアサイエンス)
宇宙航空研究開発機構,渡辺 英幸
くもん出版 (2006/09) 128ページ

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posted by ドージマ・ダイスケ at 03:56| 東京 🌁| Comment(0) | TrackBack(0) | ◆イベント・生物オリンピック | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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